おりこみどどいつ 風迅洞のお小言
ことし亡くなった人できちんと評価しておきたい人がいる。立川談志についてはなにも言うことはない。突出した落語家であり、世の評価に付け加えることはない。
団鬼六。SM作家であり、この名を聞くと、眉をひそめる人も多い。しかしそれほど変態ではないし、慕う人も多かった。わたしは氏のSM小説はほとんど読んでいない。しかしエッセイはすべて読んでいる。これが面白いのだ。
狙いの女性をとられた話や、たこ八郎とのやりとりは何度読んでも笑ってしまう。いかに、たこ八郎を可愛がっていたか、エッセイをぜひお読みいただきたい。亡くなってしばらくすると本屋から消える、そして絶版になる。いまのうちに読んでおけと知人には薦めている。
さて、もうひとり忘れてはいませんか、というのが中道風迅洞である。知らないだろうな。
現代どどいつのリーダーであった。NHKラジオ「文芸選評 おりこみどどいつ」の撰者を長く務められた。二年前に撰者を降り、今年4月に亡くなった。92歳であった。
どどいつというと、三味線を弾きながら三亀松が歌う都々逸を連想される方も多いと思うが、現代どどいつは歌わない。七七七五、26文字の定型詩(四行詩)である。何だ、俳句と短歌の中間かと思われるだろう。たしかにそうではあるが、短歌が花鳥風月、俳句がわびさびを詠むとすると、どどいつは違う世界、たとえば未練とか心意気を詠む。艶っぽいのもある。厳密にそう区別することもないけれど、得意分野があるとすればそのようになる。
どどいつを知らない人でもいくつかは聞いたこともあれば、口をついて出てくるものもあるはずだ。
三千世界の烏(カラス)を殺し ぬしと朝寝がしてみたい。
比較的知られた都々逸である。平仮名にしないのは現代どどいつとちょっと区別したいからである。高杉晋作の作と言われるが、さて、どうか。
NHKの「おりこみどどいつ」は面白かった。撰者である風迅洞の的確な指摘。うまい! と、思わず唸らせるような句(句というのか、首というのかよくはわからないが)もあった。そしてかならず撰者の「お小言」があった。
どどいつは7・7・7・5であるが、3・4 4・4 3・4・5のリズムになる。一行目と三行目は4・4でもよい。そして四行目はかならず終止形か体言となる。つまり、けり、とか、かな、としてはいけないなどと再三の「お小言」があった。
おりこみは、四行の頭の文字をあらかじめ決めておくという形式である。
たとえば、「やじきた」という題が出されれば、
やすい酒場で
ジャズ聴きながら
きょうの疲れを
ただ癒やす
というように、文字を折り込むのだ。
どどいつは、かつては短歌、俳句なみにもてはやされたが、いまではやる人が少なくなった。ほそぼそと種を絶やさぬよう続けられているのが現状である。いわば絶滅危惧種である。ならば保存に協力しよう。
その意味で、NHKラジオはエライ! 月に一度「おりこみどどいつ」を設けている。1月は14日(土)午前11時過ぎに放送される。撰者は風迅洞から受け継いだ筏丸けいこ。お題は「み・み・ず・く」である。
最後に、風迅洞のどどいつを紹介しておく。
覚めて忘れる夢艶やかな 老いがトイレの灯をともす
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