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2012年7月24日 (火)

温泉に浸るような気分で「あったか落語」

「あったか落語。ぬくぬく その弐」(成城ホール)に行ってきた。その壱は今年の二月だった。このタイトル、冬場にふさわしい。それを梅雨明けの夏にやるというのは、いかにも季節はずれのだけど、噺家三人はぬくぬく系。ほんわかした温かみのある落語が持ち味だから、このタイトルでもおかしくはない。

 落語を聴かない人には馴染みがないかもしれないが、三遊亭兼好、瀧川鯉昇、柳亭市馬、いずれもトップクラスの噺家である。

 兼好はにこにこ顔で焚き火にあたっているよう。杉っ葉や松の枝がぱちぱちはじける、あの感じである。鯉昇は床暖房。じんわり温もりがつたわってくる。じんわりである。もっとも自身の床暖ではなく、階下の住民の暖房が洩れて床暖代わりになっている。そういうくすぐりが鯉昇のまくらには出てくる。市馬は温泉に浸かっているよう。鼻歌のひとつやふたつ飛び出す、あの雰囲気である。

 われながらうまいたとえと思うが、どうだろうか。

 兼好は伸び盛り。愉快、笑顔がいい。演目は「野ざらし」。この噺、向島に釣りをしに行くは物語だが、釣りたいのは魚ではなく骨、しゃれこうべである。釣り竿を振り回し、さいさい節を歌うシーンが見せどころである。「鐘が ボンと鳴りゃさー、上げ潮、南さ・・・」と大きな仕草で歌う。そこそこうまいけれど、市馬のいるところでよく歌うよねと思ったら、本人も「市馬師匠を前にして、よく歌えるね」と自虐つっこみを入れた。会場は大爆笑となった。(注)知らない人もいると思うので、ちょっとコメントしておく。市馬の歌は天下一品である。落語界一の美声。

 ふつう釣りのシーンで終わるのだが、兼好バージョンでは、家にたどり着いて、しゃれこうべの主が長屋に現れるところまでやった。

 つづいて鯉昇。登場してなにもしゃべらないうちに笑いが漏れるのが、じんわり、床暖房効果である。脱力系ではあるけれど、喜多八が作られた脱力系なら、こちらは天然を感じさせる。まくらで、まじめそうにダジャレをいれるのがいつものパターン。おばあさんが十数時間後に生き返ったという話。このオチが生還トンネルとなる。で、演目は「船徳」。勘当された若旦那の噺であるが、若旦那の家は質屋という設定。これがオチへの伏線となる。

 竿をこぐシーンがある。この仕草をじっくりやる噺家が多くなったが、鯉昇もじっくりたっぷりやる。若旦那のこぐ仕草、船の揺れ、客の不安そうな顔、これがなんとも可笑しい。これが鯉昇の芸である。

 中入り後は市馬。まくら短めで「鰻の幇間」。幇間が見知らぬ旦那に鰻をご馳走になるつもりが、逆に金を払わされてしまうという噺である。テンポよく、くすぐりもたっぷりで、話をすすめる。落語の王道に導かれていくような気分になる。名人芸である。客が厠から戻ってこないので、不安になる。このあたりからさらにおもしろくなる。厠の戸をたたくところで、歌が飛び出す。といっても鼻歌程度であるが、これがさいさい節。鐘が ボンと鳴りゃさー、上げ潮・・・。兼好さんは歌が下手だねえとやる。会場、兼好のときより大爆笑となる。

 このあと女中に向かって愚痴を並べる。褒めるのが幇間の芸だが、腹いせで、鰻の味から、掛け軸、とっくり、なんでもケチをつける。これが愉快だった。どの噺家も同じようにやるのだが、市馬がやるとこうも違うものかと唸らされる。もう一度言う。名人芸である。その風格が漂ってくる。

 ということで、盛夏でのぬくぬく、たっぷり楽しめました。けっこうでした。

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