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2012年9月 2日 (日)

『父と息子のフィルム・クラブ』  親子の会話は成立するか?

 不登校になった十六歳の息子に、学校に行かなくてもいいから、その代わりに「週に三本、映画を一緒に観よう。映画は私が選ぶ」と提案する。それから約三年、映画を観た記録と親子の会話をまとめた本である。親子のコミュニケーションあるいは息子の自立を描いたものだが、映画を知っている人は二倍楽しめる。
 しかし、なんとも奇妙な親子である。最初の映画は「大人は判ってくれない」。トリフォー監督の自伝的処女作で、これはうなずける。二本目が「氷の微笑」なのだ。シャロット・ストーン主演のセックスシーン満載の映画で、当時話題になった。ティーンエイジャーの息子と一緒に観るような映画ではない。いくらよい映画としてもこの映画はないだろう。私は観たくない。親子ではなく、兄弟のような関係ならば、観て、話しあってもいい。この父と息子は普通の親子とではない。互いに客観視できる父と息子、そういう関係なのだと考えたほうがよいのかもしれない。
 映画については共感するものもあれば、そんなに面白い映画だったかしらと思うものもある。印象的なくだりをいくつか紹介しておく。

 父親がむかし若い女優から聞いた話。スピルバーグ、ルーカス、デ・パルマ、スコセッシは若い女性や麻薬にはまったく興味を示さなかった。暇さえあれば集まって映画談議をしていた。彼らは映画オタクだった。そうだったんだろうね。
 日本映画では二本しか採りあげられていない。黒沢明の「」と新藤兼人の「鬼婆」。後者は音羽信子と吉村実子の姑と嫁の諍いを描いたものだ。血がしたたる残虐なシーンがあるが、これをヒントにしてフリードキンは「エクソシスト」の不気味な悪魔のイメージをつくりあげた。へー、そいつは知らなかった。
 ジャック・ニコルソンの最高の演技は「さらば冬のかもめ」の海軍下士官役。これはそのとおりと思う。四十年以上前の映画。日本ではあまり話題にならなかったが、小品ながら印象的ないい映画だった。窃盗の罪で捕えられた新兵を海軍刑務所に護送する一種のロード・ムービーである。収監される新兵を気の毒に思い、酒や女を経験させてやる。若かりし頃のニコルソンははつらつとしている。のちの狂気あふれる演技につながっているとするのは考え過ぎだが、若いころからいい役者だったことはまちがいない。

 巻末には、採りあげた映画のリストが載っている。それを参考に古い映画も観てみるのもよい。

 ついでのひとこと

 新藤兼人監督には「鬼婆」をつくった直後のころ会ったことがある。ありきたりの質問をした。「監督が、一番描きたいことはなんですか」。すかさず「人間の生命力」という答えが返ってきた。いまでもそのことをしっかり憶えている。

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