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2012年11月15日 (木)

橘家文左衛門 豪胆にして繊細

今月の「この落語家を聴け!」(北沢タウンホール)は橘家文左衛門である。文左衛門といえば、落語界一のコワモテと評されている。たしかに、向こうから歩いてきたら道を譲るだろう。たけし監督の「アウトレイジ」ならノーメイクで出演できる。
 ところが落語となると繊細である。以前「文七元結」を聴いたことがあるが、これが丁寧で細部まで行き届いた素晴らしい噺であった。「やるじゃん、文左!」というのが率直な感想であった。以後、聴く機会はすくないけれど、お気に入りの噺家となった。たとえば前座噺の「道灌」にしても、他の噺家よりも丁寧に演じる。お手本になる。前座連中に見習え! といいたいぐらい、工夫もあるし、丁寧である。お妾さんが登場する噺「転宅」もいい。お妾さんを実に色っぽく演じる。古今亭菊之丞のように艶っぽい。あのコワモテからはとても想像できない。

一席目は「二人癖」。軽いが、うまくまとまっている滑稽噺である。「一杯呑める」と「つまらない」が口癖の男同士が、互いにその癖を言わないように賭けをするというストーリー。普通なら正味10分程度で終わらせることができるのだが、20分ぐらいかけて丁寧に演じた。テンポもよい。

このあとが、広瀬和生さんのインタビュー。印象に残ったひとこと。

「人のマネはしたくない。俺がおもしろいと思わなければ、やってもつまらない。だから工夫する。ということで持ちネタが少ない。それを反省して、ネタ下ろし会を毎月小さなホールで開くことにした。」

 中入り後の二席目は「文七元結」だった。鉄板ネタをもう一度聴きたいのと、別ネタ、たとえば「らくだ」を聴きたいというふたつの気持が交錯する。若いころ、「らくだ」をやったら、観ていた小三治から、お前の「らくだ」はこわい、震えあがると言われたそうだ。たぶんあのコワモテで凶暴に演じたのだろうと想像する。いまならどう演じるのだろうかと思えば聴きたくなる。

「文七元結」は人情噺の代表といわれるが、物語としては超非現実的である。借りた50両を返さなければ娘が花魁になってしまう、その50両を吾妻橋から身投げをしようとする見ず知らずの男にやってしまう話である。現実にはありえない、そんなバカなという気分が先行してしまう。そのありえない話を、ひょっとしたらあるかもしれないと客に思わせるように演じなければ、この噺はつまらなくなる。吾妻橋のシーンは、金を渡すべきかどうかで何度も逡巡する重要な場面である。ここをおろそかにやると客は白ける。文左衛門は、当然そんなことは分かっている。丁寧に逡巡を演じる。その演技は見事であった。
 かけた時間はほぼ一時間。落語にしては長い。長いが客は身を乗り出して聴き、長さを感じることはない。たっぷり。けっこうなひとときでした。

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