新百合ヶ丘は映画の街である。日本で唯一の映画専門の「日本映画大学」がある。学長は映画評論家の佐藤忠男さん。その映画の街にふさわしい企画講座が新百合ヶ丘アルテリオで開かれている。昔の日本映画を上映して、その後に佐藤さんが講義をするという内容。その第二回目に行ってきた。
今回の映画は「沓掛時次郎」。昭和61年の作品だから50年も前の映画だ。主演は市川雷蔵。原作はもちろん長谷川伸である。
戯曲「沓掛時次郎」が発表されたのは昭和3年。芝居は爆発的にヒットした。それまで仁侠者を描いた芝居はいくつもあったが、ひとりの渡世人を描いた作品としてはこれが嚆矢である。一宿一飯の恩義ゆえ三蔵という男を倒す。三蔵には妻子がいた。その妻子をヤクザ連中から守りぬくという物語である。
映画上映後、佐藤忠男さんの解説がある。これが30分ぐらいと思っていたら、1時間半ちかくの講義であった。熱演であった。内容は、映画評というより長谷川伸論。このテーマとなると佐藤さんの力が入るのはよく分かる。
内容を簡単にまとめると、以前のヤクザものはほとんど集団であったが、長谷川伸が初めて一人ぼっちの渡世人を描いた。渡世人の世界の芝居にラブロマンス(かなえられないが)を入れたのはアメリカの西部劇の影響である。開拓時代の西部には女性が少ない。西部劇では女性が崇拝の対象として描かれる。それを遡るとヨーロッパの騎士道精神に連なってくる。長谷川伸の世界にはそうした思想が根底に流れている。
それにしても映画のラストシーンには笑ってしまった。まるっきり「シェーン」なのである。映画の出来はさしてよくない。それでもいい場面がある。千枚田というのか段々畑が映し出されるシーンである。これが美しい。50年前だからそうした撮影場所も多かったのだろう。昔の映画を観る楽しみは撮影当時の風俗や風景があるが、この段々畑もそのひとつである。
主題歌が段々畑脇の道を歩くシーンで流れる。歌うは橋幸夫。これも懐かしい。
この映画講座は5回開催される。今回は大映。来月は東宝の「喜劇 駅前弁当」。駅前シリーズである。
« 「人生の特等席」 イーストウッドの渋さ | トップページ | 「こしら・馬るこ・きつつきの会」 客席はガラガラ。面白いのにねぇ。 »
「映画」カテゴリの記事
- 「リアル・ペイン」(2025.02.03)
- 「オークション 盗まれたエゴン・シーレ」(2025.02.01)
- 「雪の花」(2025.01.30)
- 「室町無頼」(2025.01.24)
- 「シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録」(2025.01.14)
« 「人生の特等席」 イーストウッドの渋さ | トップページ | 「こしら・馬るこ・きつつきの会」 客席はガラガラ。面白いのにねぇ。 »
コメント