熱暴走ってなによ?
ちょっと気になったことばがある。ボーイング787機のバッテリー不具合について、「熱暴走」という耳慣れない表現が出てきた。
熱暴走? 熱が暴走? 熱がさらに発熱を招き、制御できなくなる現象をいう化学用語だそうだ。熱で燃えたのだから当たり前のことで、それをことさら暴走と表現するとはちょっと腑に落ちないのだけれど、専門用語には外から見ると不可解な部分がある。
単なる現象でしょ。それがマスコミで採りあげられると、さも重大なことのように映る。発火が原因で、熱がかってに暴走してバッテリーに不具合を生じさせたようにも受け取れる。
原因はバッテリーに何らかの不具合(たとえば不純物が混入していた)があって、あるいはバッテリーに不具合を生じさせる外部的な要因(たとえば過充電)があって、それが熱を生じさせたことによるものである。つまり、なんらかの暴走により熱を生じさせたわけだから、暴走という表現を用いるなら、熱暴走ではなく、「暴走熱現象」と、暴走と熱を入れ替え、はっきり現象までつけて表現したほうがよいように思う。熱暴走だけでは目くらまし表現と映る。
それで、思い出したのは、年金の表現である。十年ほど前だったか、「確定拠出年金」なることばが話題になったことがある。これがよくわからなかった。調べてみると、もうひとつ「確定給付年金」という表現があることがわかった。積み立てる年金の額が決まっているか、将来受け取る年金の額が決まっているか、その違いを表現しただけのことで、それほど難しい内容ではない。なのに難しく感じるのは、日本語としてきちんと表現できていないからである。
英語を直訳したからこうなる。正しくは「拠出確定型年金」と「給付確定型年金」だろう。これならわかる。さらに、受取額未確定年金、受取額確定年金とでも表現すればわかりやすいが、未確定では不安を抱くかもしれない。だから、さも適切な年金であるようなイメージをもたせるような表現にしたのかもしれない。
気をつけないと、ごまかされる。眉に唾をつけて、読んでみなければならない。
暴走族(いまどきいないか)や暴走老人だけでなく、ことばの暴走にも注意が必要である。
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