ザ・きょんスズ 喬太郎は話芸の達人
下北沢のスズナリで柳家喬太郎の落語を聴く。これって、すごい! と、喬太郎ファンは思う。
スズナリは小劇団の聖地といわれている。神聖な場所というわけではなく、昔からずっと劇場として存続してきたというだけのことで、聖地といわれてもなあとスズナリは思っているのではないかな。
何度も、足を運んだことがある。久しぶりに出掛けたが、あいかわらず古くて狭い。詰め込んでも150人ぐらいしか入れない。そこで人気のキョンキョン(喬太郎の愛称)が聴けるのである。落語は小ホールにかぎる。多少汚くてもいい。大ホールでは落語の面白さが半減してしまう。
11日から四日間にわたって開かれるキョンキョンの落語会。11日のゲストは林家正蔵である。
開演直後、開口一番の前に、喬太郎が登場。Tシャツに紋付・袴という妙ないでたち。腹でお囃子の太鼓をやるというのだ。腹鼓ね。ポンポコと。場内、大爆笑となる。
演目を紹介しておく。
鈴が森 入船亭小辰
按摩の炬燵 柳家喬太郎
松山鏡 林家正蔵
すみれ荘201号 柳家喬太郎
開口一番が小辰だったのは、「按摩の炬燵」を演る前振りだったわけではあるまいが、喬太郎はマクラでエイの話をした。川や海にいるエイね。あの尻尾は返し針のような構造になっているので刺されたらすごく痛い。「鈴が森」に、ばかな泥棒が草むらにしゃがむと、タケノコが尻に突き刺さるという場面がある。それでエイの尻尾を思い出したという。とくに準備もしなくて、流れに沿って自在に爆笑ネタでまとめるのはさすがである。当意即妙のギャクにはいつも感心する。
ふつう二席の場合、喬太郎は古典と新作をやる。この日もそうだった。「按摩の炬燵」はあまりやるひとがいない。たしか桂文楽が得意としたネタ。按摩が酒を飲みながらしゃべるあたりをじっくり演じた。
正蔵は、柳家せん喬一門の修業の厳しさを語る。せん喬師匠に「替り目」の稽古をつけてもらったことがあるが、徹底的に直された。こんばんはというセリフひとつで夜という雰囲気が出ていないと何度もダメだしを喰らったことがあったそうだ。キョンキョンにはタコのしぐさで二時間も練習させられたこともあったという。
正蔵の持ち味は人柄の良さがにじみでてくるところにある。純朴さが漂っている。他の噺家にはないフラである。「松山鏡」には純朴な田舎の夫婦がでてくるが、正蔵のキャラに似合った噺である。
トリは「すみれ荘」。喬太郎をよく聴く人にとってはおなじみのネタである。アパートに同棲する男女がふたりとも落研出身であることを隠していたという噺。シリアスにも映るが、ばかばかしい内容で、実に面白い。この新作には、東京ホテトル音頭を歌うシーンがあるが、この日は、東京イメクラ音頭も歌った。だからどうということもないが、自由自在に押したり引いたりする芸風は、話芸の達人といってもよいのではないか。
江戸の風は吹いてはいないが、錦糸町の匂いが漂ってくる。愉快な喬太郎ワールドをたっぷり楽しませてもらった。また、行こう。
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