「ホーリー・モーターズ」 幻影の中のカラックス・ワールド
この二週間ほど映画館に行っていない。春休みのせいである。ガキ向きの映画ばかりやっているので、映画はお預け状態になっている。
「リンカーン」「舟を編む」などが待ち遠しい。近くのアルテリオ映像館(名画座的な映画館)で、「ホーリー・モーターズ」と「最初の人間」が始まった。まず、「ホーリー・モーターズ」を観た。
奇怪といおうか風変わりな映画である。白いリムジンに乗った男・オスカーは車内で化粧を始める。腰の曲がった老女に扮して街角で物乞いをする。そして次々に扮装を変え、違う人物になる。わけがわからないが、なんとなく謎が解けてくる。わかったというのではない。どう解釈してもいい映画なのだと気づく。さまざまな人物は、監督の分身か、或いは、でありたかった人物なのだろう。
パジャマの老人が出てくる。この老人が熱に浮かされて夢をみる。妄想。つまりリムジンは老人が夢見た幻想の世界なのである。老人に死は間近に迫っている。人生を振り返る。それがいい人生だったか、妄想と共に振り返る。
観ているうちに、映画へのオマージュであり、パロディではないかと気づく。老人はジャン・コクトーに似ている。「美女と野獣」を思わせるシーンがある。マンホールから出てくるシーンは自作の映画か、それとも「地下水道」か。「ゴジラ」のテーマに似たメロディが流れる。墓場で杖をもって暴れるシーンは間寛平のギャグを思わせるが、これはオマージュではない。そう思うと、トレンチコートを着た昔の恋人が突然歌いだすシ―ンがあるが、これは「シェルブールの雨傘」を連想させる。チンパンジーが出てくるのは「マックス、モン・アムール」だろう。リムジンたちがしゃべりだすのは「カ―ズ」。
音楽もいい。アコーデオンをかき鳴らすシーンは印象的である。「マイ・ウェイ」も出てくる。
「人生をやり直せるなら、もういちど同じ人生を生きたい」といった歌がラスト近くに流れる。パジャマ老人の最期の気持だと受け取った。
ということで、幻想もわるくないという人には楽しめる映画である。物語性がなければ面白くないという人向きではない。
ついでのことだが、リムジンの中で松花堂弁当を食べるシーンがある。家紋がデザインされたナプキンを首に巻き、箸を使って食べる。ちょっと驚いた。監督が日本に来たときに食べた松花堂弁当が印象に残っていたのであろう。
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