ひびや落語 「豊志賀の死」
日比谷図書館のホールで開催された落語会に行ってきた。各月でやっているということだが、今回、初めて観に行った。柳家甚語楼と柳家さん生の二人会である。
夏だから、怪談噺。といっても恐い噺ばかりではない。甚語楼の「不動坊」は、幽霊は登場するけれど、幽霊はにせものというこっけい噺である。よく演じられるのはそれだけ面白いからである。「四十九日も過ぎぬのに嫁入りするとはうらやましい(うらめしい)」というあたりがいちばん笑える。
さて、さん生は「豊志賀の死」である。円朝の「真景累ヶ淵」の一編。
あらすじを超簡単に言うと、深見新左衛門という旗本が按摩で金貸しの宗悦を殺す。新吉(実は新左衛門の子だが、家は改易となり、家来の勘蔵のもとで育てられる)は、富本の師匠・豊志賀(実は宗悦の娘)と仲良くなるが、新吉が弟子であるお久とできていると豊志賀は思い込み、新吉を恨んで自殺する。その遺書には新吉の妻を七人まで呪い殺すとあった。ここまでが「豊志賀の死」の場面。このあと、恨み辛みで新吉身辺には殺し合いが続くのだが、その前に、新五郎(新吉の兄)とお園(豊志賀の妹)の章(「松倉町の捕物」)がある。ここまでもちょいとややこしい。
「豊志賀の死」は前半の終り頃にあたる。寄席でいうと中入り前、野球なら3、4回あたりか。「真景累ヶ淵」ではもっとも演じられることが多い。なぜ「豊志賀の死」が多いのかはよくわからない。不気味さ、怪談らしさが色濃くでていて面白いからかというと、そうでもない。冒頭の「宗悦殺し」も不気味さは薄いが、それなりに面白い。それにつづく「松倉町の捕物」の殺しの場面も因果を感じさせてなかなか興味深い。新左衛門の息子・新五郎が宗悦の娘・お園(豊志賀の妹)を殺して、最後は捕まり獄門になるという章である。
これに続くのが「豊志賀の死」である。さん生は、まず、あらすじを説明する。これは親切である。
ただし新吉の出自については触れなかった。これは片手落ちであろう。この噺のバックグラウンドにある因果応報、親の恨みが次々と血を流していくというテーマが伝わってこない。
ちょいと生意気な見解を言ってみた。実は、三遊亭円生が通しでやった録音を先だって聴いたからである。にわか仕込みの知識を披露したかっただけ。知ったかぶりである。
だから、新吉の出自うんぬんといった素人ツッコミはどうでもよい。勘蔵のところに重病の豊志賀が来ていることを新吉が知るあたりから、怪談らしい不気味さが高じていく。このあたりを楽しめばよいのだ。
円生の録音、最後までは聴いていない。今月中には聴き終えようと思っている。でも、いまどき、「真景累ヶ淵」を通しで全部聴こうなんて酔狂な人間はいるのだろうか。いても少ないだろうね。
ついでのひとこと
どうでも、いいことだが、すし屋の場面で味醂は出てこなかった。円生では出てきた。
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