無料ブログはココログ

« 圓太郎落語会 容子がいい | トップページ | 「オン・ザ・ロード」 ドラッグとプルースト »

2013年9月 7日 (土)

「風立ちぬ」とロジスティックス

 

 映画「風立ちぬ」の中で、ゼロ戦を飛行場まで牛が曳いていくシーンがある。当時としては最先端の航空機を江戸時代のような荷車で曳いていったのかと驚きの気持ちでご覧になった方も多いと思う。実話である。

 名古屋の港区にある三菱重工の工場で造られたゼロ戦は名古屋を縦断して、小牧、犬山から木曽川を越えて各務原飛行場まで運ばれた。およそ四十八キロ。一昼夜かかったという。

吉村昭はその著作『零式戦闘機』の取材過程で、牛車を使用したことを聞き、思わず「なんですって?」と声をあげたことを記している。(『歴史の影絵』)

雨が降ると悪路となり、トラックでは機体を傷つけてしまう。馬だと暴走することもあった。木曽川を船で運ぶ手段もあったが、浅瀬では人(二百人)が曳かざるをえなく、結局、大人しい牛に曳かせることになった。牛は疲れ、斃れるのも多かったという。後に、屈強な馬に切り替わったが、それはそれで馬の調達が大変だった。

 この牛曳きは、日本人の物流に対する弱さ、物流を軽視する思考を象徴している。インフラ(道路や鉄道網)やロジスティックス(兵站。物資保管・輸送)を二の次にしてしまう。このあたりは、司馬遼太郎が強く指摘している。

 大戦中、南方への物資補給をする輸送船には、当然、護衛艦が必要だが、ほとんど無防備の状態で、多くがアメリカ軍の餌食になった。逆に、アメリカ軍は物資輸送を重視し、護衛も万全を期していたので犠牲は少なかった。もっとも日本軍の攻撃対象は、戦艦や航空機であって、輸送船ではなかったので、護衛艦なしでも攻撃することはなかったかもしれない。

 真珠湾攻撃でも対象は戦艦であって、パールハーバーに隣接する燃料備蓄基地を一切攻撃しなかった。これを攻撃していたら戦況は違っていただろうと指摘する人もいる。

 

 戦後、高度成長につれて、物流が大切だという考えはずいぶん浸透してきた。インフラの整備や最適物流への取り組みは進歩した。卑近な例では、情報システムを駆使した宅配便の普及がそれを象徴している。

でも、まだまだロジスティックスの不十分さを感じるものは多い。生産重視で、モノの輸送や回収を後回しにしているものもある。さらに、過去を引きづっているものもある。インフラに目をやれば、たとえば、東西で異なる電気のヘルツ数。鉄道の広軌と狭軌。

原発もそうだな。廃棄物処理って極めて重要なんだけど、ずっと後回しにしてきた。どうするんだろうね。

 

ついでのひとこと

山本周五郎の脚注付きの全集が新潮社から出版されている。『小説 日本婦道記』のしおりに、こんなことばが書かれていた。「日本人とは全てが常に殆ど無計画であり、そのときばったりだ。」(『青べか物語』)

« 圓太郎落語会 容子がいい | トップページ | 「オン・ザ・ロード」 ドラッグとプルースト »

経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「風立ちぬ」とロジスティックス:

« 圓太郎落語会 容子がいい | トップページ | 「オン・ザ・ロード」 ドラッグとプルースト »