しんゆり映画祭 ドキュメンタリーの世界
毎年十月上旬、地元麻生区では「しんゆり映画祭」が開催される。ふだん観ることのできない作品(マイナーだが佳作)が上映されるので楽しみにしている。ことしはドキュメンタリー映画を何本か観た。
「陸軍登戸研究所」は前にも紹介したことがある。明治大学生田校舎になっているところにあった陸軍の研究所である。風船爆弾、偽札づくり、BC兵器の開発を秘密裏に行っていた。地元ということもあり、関心は高く、上映された二回とも前売で完売となった。以前観た映画なので、今回はパスした。
池谷薫監督の「先祖になる」は震災後の陸前高田で出会った老人を描いた作品である。仮設住宅には移らず(奥さんだけ仮設住まい)、一人壊れた家に住み続ける77歳の老人である。木こりと農業を営む。山の神への信仰心が厚い。頑固一徹だが気持ちは優しい。地元を愛し、伝統の祭りの復活を願う。そして、その歳にして家を建て替える決意をする。実際、新しい家が建つまでを描いている。元気で明るい老人の姿は観ていて清々しい。上映の機会があれば、ぜひ観ていただきたい。
「珈琲とエンピツ」も印象に残る作品だった。サーフショップを営むろう者が主人公である。来店客にはまずコーヒーを勧める。そして紙とエンピツで筆談。もちろん身振り手振りを交えての会話となる。手話ができない人でも十分コミュニケーションがとれる。主人公の太田さんはひたすら明るく陽気。風貌はツノダヒロに似ている。この体型と人懐こいキャラが、ことばの壁を低くしている。
監督の今村彩子さんもろう者。美人である。ナレーションも今村さんが担当している。ろう者の発音だからといって聴きづらいことはない。しっかり明瞭に発音しようとしていることがわかって、この映画にはふさわしいナレーションとなっている。字幕も活字ではなく、手書き。監督の肉筆。親しみがわく字体である。
こういう作品を観ると、ドキュメンタリーも見逃せないと思う。「しんゆり映画祭」は小品まで目配りするセンスも優れている。来年も楽しみである。
写真は、「珈琲とエンピツ」上映後のサイン会の様子。
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