「新ニッポンの話芸」 馬るこ、新人芸能大賞を受賞
立川こしら・鈴々舎馬るこ・三遊亭萬橘の三人の会に行ってきた。久しぶりである。
先月、馬るこがNHK新人芸能大賞・落語部門でみごと優勝した。その模様はテレビで放送されたが見逃してしまった。演目は「平林」だったそうだ。調子のいい軽い噺だから、馬るこらしく、飛び跳ねるように演じたのだと思う。ということで、お祝いである。馬るこがトリをとることになった。
こしらは「時そば」。このネタを以前やったとき、評論家の広瀬さんは「ふつうにおもしろいだけ」と批判した。こしららしくないというのだ。この話が伝わり、こしらが「時そば」をやると、手抜きでしたねとしばしば批判されたそうだ。時そばでなくて、手抜きそばである。(たぬきそばのシャレね)
で、「今度は観てろ! 爆笑させてやる! 広瀬をギャフンと言わせてやる」ということで、今回のリベンジマッチとなった。
前半の客の場面は古典通りふつうにやった。後半の客の場面で爆発した。予想外のギャグを盛り込んで、これぞこしらというような噺に仕立てた。おもしろかった。手抜きそばではなかった。
談志家元が落語はイリュージョンだと語っていたのをご存知であろう。あのイリュージョンにもっとも近いのがこしらの落語ではなかろうかと気づいた。孫弟子のこしらが家元のイリュージョンの血をもっとも色濃く引き継いでいくとしたなら、これはちょっと愉快である。
蔓橘は緩さがいい。ふつうの感覚とはすこしずれる。おとぼけ系。この人の持ち味である。古典噺でも、大筋は外さないが、思いもつかないようなギャグをさりげなく盛り込んで、観客を楽しませる。こしらと違って、出来不出来はなく、安定している。今回は「辻駕籠」。初めて聴いた。
おもしろかったのは、駕籠屋の名を忘れてしまったところだ。「なんとかという駕籠屋」で繕った。あとで、ひょいと思い出して、江戸勘という名がでてきた。忘れたとき、どう対処するかも落語をライブで聴くときの楽しみである。
度忘れはどんな落語家にもある。こういうときのこしらがおもしろい。「船徳」に「竿は三年 櫓は三月」というせりふがある。これを忘れて「竿は三年 櫓はウン年」とやって笑わせた(失笑された)ことがある。客から「櫓は三月」と声がかかる。助け船である。「どうして三月(短い)なんでしょうねえ」と引き取って噺を続けた。
蔓橘は後半で江戸勘を思い出して「(思い出したのは)ふだんの練習の成果だ」と安心したように語った。
さて、トリは馬るこ。「動物園」である。この噺はけっこう聴いている。動物園に雇われた男がライオンの着ぐるみを着る話である。近ごろのことばでいうと偽装ライオンである。毒気を含んだギャグも盛り込んで弾けるような噺に仕立てた。馬るこらしさが出ていた。
この噺の見どころのひとつはライオンの仕草である。関西の落語家はうまい。いかにもライオンが歩いているように演じる。その点、馬るこは下手だ。もっとも「ギンギラギンにさりげなく」と歌いながらの仕草だからこれでいいのかもしれない。古典落語にマッチ(近藤真彦)の歌が入ってもおかしくないのが馬るこ風である。
HNK新人大賞のお祝いで成城ホールのお客さんから祝儀をたくさんもらったそうだ。そのお返しとして、十二月に無料落語会を成城ホールと北沢タウンホールの会議室で開催することになった。馬るこらしい振る舞いである。この人、ボランティアとかサービス精神が旺盛である。
お近くの人はぜひ足を運んでもらいたい。詳細は、成城ホールに訊いてください。
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