農薬混入事件のゆくえ
アクリフーズの冷凍食品から農薬が検出された問題は、何者かが意図的に混入させた疑いが強くなった、と報道機関は伝えている。包装段階での混入が疑われ、現場にいた従業員などから事情聴取を始めたそうである。
製造の川上工程(原料投入や加工など)ではなく、川下に近い包装工程での混入が疑われる。犯人は別として、現場にいた人はたまったものではなかろう。犯人ではないかと疑われながら事情聴取を受けることになる。怪しい動きはなかったかと訊かれるから、同僚を疑わなければならなくなる。疑心暗鬼が広がる。
吉村昭の小説『戦艦武蔵』の中に、一枚の極秘図面が紛失する場面がある。図面は厳重に管理されていたが一枚が管理庫に戻されていないことが発覚する。主砲の砲塔部分の図面で、専門家が見れば主砲の大きさや性能が推測できるものであった。厳重な捜査が始まり、とりわけ設計に関わった八人の技師・製図工が拘束され、苛酷な取り調べを受けることになった。
のちに、設計現場にいた作業補佐の少年が犯人であることが判明して、事件は収束する。しかし、拷問同然の取り調べを受けた技師たちはその後遺症からしばらくは立ち直れなかった。今でいうPTSDである。
戦時中とは違うから、アクリフーズ従業員への取り調べは穏やかに行われるだろう。しかし疑いをもっての聞き取りであり、同僚を疑うことにもなるのだから、精神的にはかなりの圧迫感はあるだろう。
で、犯人はどんな人物だって? 予想しようか。いや、やめておく。
『戦艦武蔵』の少年は、設計技術の習得ができると考えていたが、実際には雑役に近い仕事ばかりやらされていた。同時期に入った仲間とは技能の差が生じ、焦りを感じていた。自尊心も傷つき、不満を抱くようになった。その不満から、ちょっといたずらしてやろうというのが動機だった。
農薬混入事件と戦艦武蔵との関連はない。ちょっと思いついたので、記してみただけのことである。
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