古今亭寿輔 こういう文七もある
古今亭寿輔。落語家としての知名度はそれほど高くない。しかし寄席での人気は高い。中高年の女性のファンが多い。
派手なラメ入りの羽織。おとぼけおじさん、といった風貌。高座にあがれば、まず客席を見渡す。クスクスと笑いが広がる。こうなりゃ寿輔の世界である。「何がおかしいの? そこの奥様(お嬢様と言うときもある)」と、客いじりが始まる。
その落語会に行ってきた。きょうは淡い鶯色の衣装。もちろんラメ入り。一席目は「かけあい都々逸」だった。得意ネタである。かけあいで都々逸ごっこをやる。古典の「二人旅」に似ている。下ネタも適度というか、かなり混じっている。
二席目は「文七元結」だった。大ネタである。娘(お久)を形に手にした五十両を吾妻橋から身を投げようとした男(文七)にくれてやるという噺である。
場面展開はつぎのようになっている。①長屋。長兵衛が帰ると娘のお久がいないことを知る。吉原の佐野槌から、お久は佐野槌にいると使いがくる。②吉原の佐野槌。長兵衛は佐野槌の女将さんから、お久を形に五十両を借りる。期限までに返さないとお久を女郎にするという約束で。 ③吾妻橋。橋から身投げをしようとする男(文七)がいる。五十両掏られた、死ぬしかないと言う。長兵衛は手元の五十両をくれてやる。④文七が働く鼈甲問屋。五十両は掏られたわけではなく、忘れてきたことがわかる。 ⑤ふたたび長屋。夫婦げんかの真っ最中に、長兵衛を探し当てた鼈甲問屋の主人と文七が訪ねてくる。
寿輔は①②をはしょって吾妻橋の場面から始めた。
時間がないからはしょったのか、これがいつものやり方なのか知らないけれど、えっと驚いた。こういう「文七」は初めてである。①②の場面、これまでのいきさつは、長兵衛と文七とのやりとりの中で説明されるからストーリーがわからないわけではない。なるほどこういう手もあるのかと感心した。
この噺、見ず知らずの自殺願望の男に大切な五十両の金をくれてやるというかなり無理のあるストーリーである。だから、金をくれてやる行為を客に納得させなければならない。少なくとも、ありうるかなと思わせる説得力がないとダメである。これまでさまざまな噺家が工夫を凝らしてきた。そのあたりを説明すると長くなるので別の機会に譲る。
寿輔は、吾妻橋の場面、つまり金をくれてやるというシーンを重視するゆえ、前の場面を省いたわけである。時間との絡みもあったのかもしれない。
こういう「文七元結」もあるということ。なかなか面白かった。
ついでのひとこと
この噺の、最後の長屋での夫婦げんかの場面、ここも違和感がある。夫婦げんかではなく、一晩たって、金をくれてやったことを悔いるようにしたほうがもっと面白くなると思う。それについても改めて書いてみたい。
もうひとつ。文七が身投げをするのを止める場面では、五街道雲助の演技が印象に残っている。文七を羽交い絞めにするのだ。雲助らしく細部にこだわった演出である。
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