「アズ・タイム・ゴウズ・バイ」とアインシュタイン
ちょいと前に紹介した『俳魁』(三田完)の中に、ピアニストであった亡父の演奏テープ(オープンリール)を聴くシーンがある。
ライブ会場での演奏。曲は
As Time Goes By。演奏の後、俳人である司会者がこの歌について解説する。その下り。
歌詞の内容は・・・・キスはキス。溜息は溜息。アインシュタイン博士の新たな物理学理論が流布して時代がいかに変わろうとも、人間にとって大切なことはなにひとつ変わらない。・・・・というものです。つまり、むりな理屈を申せば、これはまさに芭蕉の唱えた〈不易流行〉ということではありますまいか。 (p.410)
As Time Goes By は、映画「カサブランカ」で有名になった。「時の過ぎゆくままに」と訳されるが、これは誤訳だとの見解がある。「時は過ぎても」とか「時は過ぎようとも」と訳すべきだと。前後関係からすれば、「時の過ぎゆくままで」はおかしい。
この曲の歌詞にアインシュタインが出てくる。ヴァース(メロディの前に出てくる前奏)部分である。ヴァースは歌われることが少ないので、あまり知られていない。
アインシュタインが特殊相対性理論を発表したのは二十世紀初め、一般相対性理論は第一次大戦の数年前に発表された。ニュートン力学を覆す理論に世界中で話題になった。光が曲がるとか時間が短くなるとか言われても、さっぱりわからない。わからないけれど、当たり前のことが覆されるのは驚き以外なにものでもない。宇宙空間ではとんでもないことが起きているらしいというのが当時の世相であった。
だからアインシュタインなのである。宇宙がどうであろうとも、時がどのように流れようとも、そんなことは関係ないというのが、この曲には込められている。
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