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2014年12月20日 (土)

中国での松本清張

 

  せんだって、松本清張が中国ではどう読まれているかといった話を清華大学の王成教授から聴いた。

中国での日本大衆文学の事情は、村上春樹がけっこう読まれている程度の知識しかない。それだけにけっこう面白かった。以下はその話の骨子。

 文化大革命後、「君よ憤怒の河を渉れ」を皮切りに「幸せの黄色いハンカチ」など日本映画が続々と上映されることになった。「霧の旗」や「砂の器」など清張ものも上映され、いずれも大ヒットした。その後、松本清張のミステリーが次々と翻訳されていくことになった。

 80年代は、改革・解放期にあたり、資本主義がもたらす社会悪を追及するとか、人間のエゴイズムを批判する内容のミステリーが中国の読者をとらえた。

90年代になると、中国も高度成長期になるわけだが、日本の高度成長期の社会現象や人間の欲望を批判的に書いた清張作品があらためて評価を受けることになった。つまり、中国の先行モデルとしての自己を映す鏡のような作品として清張文学は位置づけられた。

 文化大革命のさなか、紅衛兵は恩人を吊し上げ、処刑した。それは負い目として残った。「砂の器」も、恩人である育て親の元巡査を殺した。このあたりが共感を呼ぶ。

「霧に旗」は無実の罪の兄の弁護を断った弁護士に復讐する話だが、中国では「復讐する女」というタイトルとなっている。これを相似形にしたような小説が中国でも生まれている。下放時代にレイプされた女が、解放後、実業の世界で成功している犯人に復讐するといった内容の小説が高い評価をうけているとのことである。

といったわけで、松本清張は日本大衆ミステリーの先駆者として評価され、宮部みゆきや東野圭吾は清張の弟子といった扱いで紹介されているのだそうだ。

 

面白いのは、「球形の荒野」は「日本を裏切った日本人」というタイトルに変えられていることだ。「球形の荒野」というタイトルは比喩的で、「日本を裏切った日本人」は内容に近いかもしれないが、ちょっと露骨すぎる。「日本を救おうとした日本人」なら妥当だが、「裏切った」の方が現代中国では受け入れやすいのだろう。

 

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