談志のまくら その了見
一流の噺家は総じてまくらもおもしろい。時事的な話題や身辺雑事を可笑しく語る。
米朝亡きあと、落語界唯一の人間国宝となった柳家小三治は、まくらが長いことで有名である。まくらに一時間を費やすこともあった。でも、ファンから文句は出ない。そっちの方も、そっちの方がというべきか、おもしろい。小三治のまくらだけを採録した本もでている。『ま・く・ら』など三冊ある。いずれも中身は濃く、さすがまくらも小三治の芸である。
談志のまくらもおもしろい。まくらを集めた『談志のまくらコレクション』(竹書房 文庫)が出版された。若いころのもの(昭和40年以降)から晩年近くのものまで収録されている。
ひとことで感想をいうと、談志の悪たれである。常識をひっくり返す、つまり意表を突くようなものが多い。だから、とんでもない奴だと批判を浴びることになる。
しかし、談志ファンは、談志だから許されるギャグだと評価する。暴言であっても、笑える。だから談志はライブで聴かなくっちゃ、となるが、今となってはCD・DVDで聴くしかない。
本書から一部を紹介する。昭和46年のひとり会。参議院議員になったかならないかの頃である。
ソビエト(ソ連がまだあったころ)が蟹を獲らせてくれないのを怒ってのまくら。
「だけど、くれなきゃ、蟹がこっちにくるようなことを考えればいい。(中略)
ソビエトの方へ、柿の種を放っちゃうんだな(爆笑・拍手)。こっちに、握り飯を、こう置いておくわけなんだな(笑)。すっると、蟹が全部こっちへ、・・・・・これで当選するのかね(笑)。そういうことを日夜考えている(笑)。」
暴言というより、バカ話、笑えるジョークである。
この本には特典がある。スマホでQRコードを使って談志落語三席をダウンロードできる。「源平盛衰記」「三軒長屋」「芝浜」。「源平盛衰記」を聴いてみた。52歳の時のもの。若いころの録音しか聴いたことがない。
若いころの方が迫力があるけれど、まくらや途中織り込むギャグはこっちの方が過激である。過激と言うより暴言にちかいか。その暴言を楽しんでいただきたい。
ということで、本書、お買い得である。
ついでのひとこと
談志が生きていたら、どんなまくらになるのか。
「イスラム国、マンセイ!」ぐらいのことは間違いなく言うんだろうね。
« 「じじむさい」か「じじくさい」か | トップページ | 「妻への家路」 チャン・イーモウ作品 »
「落語」カテゴリの記事
- 生田寄席 文菊(2024.09.05)
- 喬太郎・白酒・一之輔三人会(2024.08.30)
- 「国本武春の丹波浪曲道中記」(2024.07.29)
- 鶴川寄席 扇辰・兼好二人会(2024.07.21)
- 「八起寄席」 小間物屋政談(2024.07.17)
コメント