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2015年4月17日 (金)

おーい、ナカムラ

 

 街中で声をかけられた。

「あれ、久しぶりじゃないか。ほら、鈴木だよ。鈴木タカシだよ」

 見覚えがない。鈴木という姓ならたちまち何人も思い浮かべるが、目の前にいる人物に心当たりはない。どちらの鈴木さん? と問う。

「あれ、忘れちゃったの? 冷たいなあ、惚けたんじゃない? ほら、山ちゃん、山崎さんとよく遊んだじゃないか」

 山崎なら数人心当たりがあるけれど、どの山崎なのか。「山崎さんって、どこの?」

「世田谷。ときどき会うけど、いまでも元気だよ。なんだ、まだ思い出さないの。冷たいなあ」

 そう言われても、思い出さない。他人の空似。たぶん人違いをしているのだろう。この鈴木にも山崎という人物にも心当たりがない。

しばらく立ち話をしたが、「人違いじゃないの。ぼけかもしれないけど、わたしはアナタを知らない。あしからず」と答えて、その男と別れた。

 

 後日、その話を知人にしたら、そりゃ、新手の詐欺だよと言われた。

 最後に「今から修理に出したローレックスを取りに行くんだけど、財布忘れちゃったんだ。一万円貸してくれない?」と親しげに言う。なんとなく負い目があるので、言われるまま見知らぬ男に金を渡してしまう。それでおしまい。金は返ってこない。寸借詐欺である。その被害にあったのがいるんだよ、との解説である。

 うーん、あれは寸借詐欺だったのだろうか。言われればそんな気もするが、そうでもないような気もする。わからない。そのあたり、もう少しつきあって、詐欺かどうか確かめればよかった。

 

 街中で、自分の名前を正しく呼ばれたら、見覚えのない顔でも話をあわせてしまうかもしれない。相手の名前など名札で簡単にわかることもある。

「おーい、中村くん。ちょいとまちたまえ。たまにゃつきあえ、いいじゃないか、中村くん」なんて呼び止められたら、どうする? 中村君。

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