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2015年6月12日 (金)

『キャパへの追走』  キャパの足跡をたどる旅

 沢木耕太郎のキャパ本、最新作である。前作『キャパの十字架』は、あの「崩れ落ちる兵士」がどのように撮られたか、その真相を探る内容だった。  

場所はどこか、果たして撃たれた瞬間なのか、カメラはライカかローライフレックスか、そもそも撮ったのはキャパ自身だったのか、それらを明らかにしようとしたノンフィクションであった。なぜそれほどこだわるのか、いささか疑問を感じた。

 今回の『キャパへの追走』は、キャパの撮った数々の写真の現場を探し出し、同じ構図の写真を撮ってみようとした旅の記録である。酔狂というか贅沢というか、キャパの足跡をたどっていく。

スペイン内戦なら70年以上経過している。場所を特定するのは難しい。風景は一新している可能性が高い。じっさい、場所が見つからず、あちこち歩き回ることも多かった。偶然、ビンゴ! とばかり見つけることができた場所もある。そんなエピソードを重ね、キャパの人間像を浮かびあがらせる。と同時に、それは著者自身の自画像でもある。

 有名な写真の一つに、ドイツの協力者として丸坊主にされた女性を撮ったものがある。赤ん坊を抱えた若い女性が周りの人たちから嘲笑を浴びせられている、引き廻しのような光景である。あれは町(シャルトレ)から追い立てられるシーンのように言われているが、そうではない。警察署の中庭に集められ、髪を刈られた後、家に戻る場面だそうだ。

女性は特定され、その後の人生も明らかになっている。その後、収容所に入れられ、十年後にシャルトレの自宅に戻るが、まわりから相手にされず、四十代半ばで死ぬ。赤ん坊だった娘はその後パリに去り、過去については一切語らなかったという。重い人生である。印象に残る。

 かるいエピソードもいい。バルでワインを飲んでいる老人を扱った章(テルエル/スペイン)。ハモン(生ハム)を頼むとハモンの塊から薄くそいでくれる。その下にある受け皿に残ったハモンの削りかすを常連らしい老人がふらりとカウンターの中に入ってつまみ食いをする。バーテンはとりたてて反応しない。この無言の応答が愉快である。人生の一断片をスケッチ。添え物のような文章だが、印象的である。

 この本から浮かびあがってくるのはキャパの人間臭さである。酒好き。タバコもギャンブルも好き。金銭感覚も緩い。なんといっても女好き。浮名を流した女性は多い。買った娼婦も多かった。

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