しんゆり寄席 文左衛門の技量
アルテリオ小劇場(新百合ヶ丘)では毎月「しんゆり寄席」をやっている。地元在住の初音家左橋と桂米太朗が交互に出演し、これにゲストが加わる。
今月のゲストは橘家文左衛門。強面な風貌どおり豪胆な部分もあるが、お茶目で、繊細な芸風も持ちあわせている。私の好きな噺家の一人である。今回は見逃すわけにはいかない。
中入り前は古今亭志ん八。しばらくぶりに聴く。ゆるい愉快な芸風である。オレンジ色の着物は高座のもうせんと同色調。演じた新作落語のタイトルは知らないが、金魚の噺である。目の小さい出目金。赤い着物の袂をひらひらさせると、なるほど金魚である。これが売り。
あとで当人のブログを覗いてみたら、金魚ネタが多いようだ。
文左衛門は中入り後に登場。なにをやるのかと思っていたら「笠碁」だった。
ことしは「笠碁」をよく聴く。待った、待てないで、ヘボだのザルだのと口論になる碁仇が登場するポピュラーな演目。
ご隠居さんは遠慮がちに、待った!を頼むが、相手はダメだと断る。相手が言うことを聞いてくれないので次第に不機嫌になり、むかし金を貸したことを持ちだして、声高なけんかになる。微笑んだり、怒ったり、なだめたりと、文左衛門は表情豊かに演じる。
怒鳴ると、おっかないのは風貌どおり。ちょいと声質を変えると色っぽい女になる。小さい声なら自信なさげな小心者になる。上手いものである。
とりは、初音家左橋の「佃祭」。私の好みでの演目である。実存主義的というか、人生の分かれ目、偶然の出来事を描いている。
小間物問屋を営む旦那が、佃島の終い船に乗ろうとするが、見知らぬ女に袖をひかれ、帰れなくなってしまう。女はかつて身投げをするところを助けた娘だった。女の亭主は船頭なので船は出せる、そのまえにぜひお礼がしたと家に誘う。しばらく家にいると、亭主が帰ってくるが、乗ろうとしていた終い船が転覆したことを知らせる。船に乗り遅れたことで命拾いをしたことになる。
一方、旦那の店では、大騒動となる。船が転覆し、旦那は死んだものと、はやばやと葬式の準備が始まる。そこにひょっこり旦那が帰ってくる。
左橋は丁寧に演じた。この人の口調はねばっこい。特長ある声で、志ん生に似ている。
ただ、今回の噺、あまり工夫が凝らされていないように感じた。それが悪いってことではないけれど・・・・たぶん志ん朝の「佃祭り」と比べてしまうせいだろう。
« 松元ヒロ 「街の灯」を演じる。 | トップページ | 「談笑十八番」 第二弾のトリネタは? »
「落語」カテゴリの記事
- 生田寄席 文菊(2024.09.05)
- 喬太郎・白酒・一之輔三人会(2024.08.30)
- 「国本武春の丹波浪曲道中記」(2024.07.29)
- 鶴川寄席 扇辰・兼好二人会(2024.07.21)
- 「八起寄席」 小間物屋政談(2024.07.17)
コメント