「真景累ケ淵」を通しで聴いてみた
三遊亭円生の「真景累ケ淵」を通しで聴いてみた。CDにして8枚。長い噺である。
ふつう、寄席で演じられるのは「豊志賀の死」の章である。その他の章はほとんど演じられることはない。だから全体像は把握できない。
歌丸さんが数年前に通しでやった。その一部を聴いたのだが、やはり全体像は把握しにくかった。原作をしっかり読み込んでおけばよいのだろうが、面倒でもある。
全体像から枝葉をほとんど切り取って圧縮すると、次のようになる。
旗本深見新左衛門は、貸金の返済を迫る鍼医宗悦を斬り殺す。これが発端である。このあと二人の係累が因果な事件に巻き込まれていく。
新左衛門は酒におぼれ、ついには妻を斬り殺し、家は断絶となる。新左衛門には二人の息子がいた。長男新二郎は家を出るが、のちに罪を犯し獄門となる。幼い次男の新吉は門番だった勘蔵に引き取られ育てられる。以降、この新吉を軸として物語は展開する。
成人となった新吉は富本節の師匠豊志賀の下働きをするようになる。新吉はこの豊志賀といい仲になるが、新吉が稽古に通うお久と関係をもっているのではないかと疑う。嫉妬した豊志賀は神経を病み自殺する。新吉にとりつく女七人にたたりついて殺すとの遺言を残していた。豊志賀の出自を明らかにしておくと、実は宗悦の長女だった。
このあと、新吉とお久はその実家であると下総羽入村に行くが、新吉はお久を過って殺してしまう。お久が豊志賀に見えたからだ。死体を隠す。新吉はお累(お久のいとこ)に惚れられ、養子になる。お累に子ができるが、新吉は名主の妾お賎と密通する。新吉の歯車は狂い出し、お累の子を殺し、お累を死に追いやる。そしてお賎の手引きで名主惣右衛門を殺すが、与太者である甚蔵に見破られる。新吉は甚蔵と争うが、お賎は甚蔵を鉄砲で殺す。
円生バージョンはここで一応締めくくりとしている。円朝の原作は、さらに続くのだが、惣右衛門にかかわる人物などが登場してややこしくなるので、ここで打ち切ったものと思われる。歌丸バージョンではさらに続けている。
新吉が関係する女は、お久、お累、お賎と続いた。新吉はお賎と一緒に駆け落ちをする。逃げる途中で尼僧に出会う。この尼僧はお賎の母親であるお熊だった。
このお熊は、物語の発端となる深見新左衛門の妾だった。そしてその妾の子がお賎だったことが判明する。つまりお賎は新吉の異母妹だった。なんという因縁。新吉はお賎を鎌で殺し、じぶんも命を絶つ。さらにお熊も自害する。
ぎゅっと圧縮するつもりだったが、枝葉を断っても、これだけの長さになる。一度、読んだぐらいではわからない。それぐらい複雑な物語である。
その複雑さを無理やり圧縮すると、親の因果に呪われた男が次々と女を不幸にして、ついにはみずからも神経を狂わせていく物語となる。その大幹(エッセンス)から、枝葉をつけて物語を再構築する手もある。
誰か、二時間ぐらいの物語に仕立てあげ、一気に演ってくれないものか。
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