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2016年7月31日 (日)

『半席』 恬淡と生きる武士たち

 

 青山文平の名は、直木賞を受賞するまでは知らなかった。受賞作『つまをめとらば』を読んでみた。

 時代小説。武家もの。主人公は出世意欲がないわけではないが、あせってはいない。肩に力は入っていない。頼りなげだが、決めるところは決めるといったキャラクターは好感が持てる。

文章もいい。煮物の話題のあとに、「そうこうするうちに、醤油と味醂が出会うように、男と女の間柄になった」というような比喩表現がおもしろい。

 

半席』はそれに続く作品。連作短編である。半席ということばはこの小説で初めて知った。お目見え以上の旗本ではないが、かといって万年御家人というわけではない。うまくすれば、れっきとした旗本になれるような立場にある。

 主人公・片岡直人はその半席。幕府の御用を監察する徒目付という役についている。上司・内藤雅之からの指示をうけて事件の調査をする。

 この雅之のキャラがいい。生きのいい魚が入ったと言って、直人を料理屋に誘う。食通である。池波正太郎の小説に登場する人物を彷彿とさせる。侍らしくないが、人生の愉しみを知っている。その一方で、人を見る目はある。直人の性格などはきちんと把握している。

 調査対象となる人物は老人が多い。八十七歳という現役の武士が刃傷沙汰で牢にいる。なぜやったのか、その動機が明らかになれば一件落着となる。老人の調べなど直人は不本意に思うが、片岡に説得される。おまえは爺たらしだと。

 もうひとり、いいキャラの男が登場する。沢田源内という大道で偽家系図を売る浪人。汲々としながらもあっけらかんと生きているように映る。直人の調べにヒントを与えてくれる。

 肩肘張らなければ生きていけない武家社会にあって、出世などいかほどでもないと恬淡としている人たちだ。

 この浮き世離れした雰囲気がいい。

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