桂春蝶独演会 「約束の海」
桂春蝶独演会(成城ホール)に行ってきた。
春蝶は東京ではあまり知られていないが、上方では若手(といっても42歳)の人気噺家である。米團治(米朝の息子)を追うような存在で、東京なら一之輔、白酒、兼好といったところか。最近は、東京でも活躍の場を広げている。しばらくすると雀々並に人気が出てくるかもしれない。
今回は、ネタ出しがしてあって「約束の海~エルトゥールル号物語」を演じる。
前半は、かなり長いマクラのあと、なにをやるかと思っていたら、「紙入れ」だった。貸本屋の新吉は得意先の女将さんから、亭主が留守をするから泊まっていけと誘われる。ところが亭主は予定を変えて帰ってくる。あわてて逃げ出すが、女将さんからの手紙が入った紙入れを忘れたことに気がついて・・・という古典噺。
この女将さんを色っぽく濃厚に演じた。その妖艶さというかセクシーさがなんとも可笑しかった。
後半はがらっと変わって、まじめな感動物語。「エルトゥールル号物語」は昨年だったか一昨年だか忘れたが、映画になった。内野聖陽が主演した「海難 1890」。ご覧になった方も多いと思う。
明治時代、トルコ(オスマン帝国)の軍艦・エルトゥールル号が和歌山沖で座礁し転覆した。島の住民は遭難者を懸命に救助した。なけなしの食料も分け与え、生存者は命を落とすことはなく、無事トルコに帰還した。その美談はトルコでは教科書にもなっているほどで、トルコが親日国となっているひとつの理由である。それから一世紀近くたったイランイラク戦争の折、フセイン大統領が突然48時間後には航空機の航行を禁じると宣言した。日本からの救援機は来ない。テヘラン在住の邦人は脱出できなくなった。そこに手をさしのべたのがトルコである。自国民をさしおいて日本人のために航空機を手配した。
この映画をベースにして落語にしたものである。落語と言うより講談に近いか。笑いは少ないので、途中でくすぐりも入れて、工夫も凝らしている。そのひとつが米團治ネタで、祇園には米團治に似た子がいるとかといったギャグである。これは以前にも聴いたことがある。
感動のストーリーである。終演後、春蝶は、こうした史実に基づいた新作をつくっていきたいと語った。近々、沖縄戦をベースにした噺をやるそうである。これも聴いてみたいネ。
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