『東京クルージング』 伊集院静
日経新聞朝刊の連載小説は、サントリーの創業者らの伝記「琥珀の夢 小説・鳥井信治郎と末裔」である。連載200回を超しているがまだまだ序盤。これからがおもしろくなりそう。作者は伊集院静である。
『東京クルージング』はその前に地方紙に連載していたものである。
ちょっと風変わり。松井秀喜が登場する。著者自身と思われる小説家の伊地知と公共放送のディレクター・三阪剛が、ヤンキースに移籍して活躍する松井を追いかけたドキュメンタリーを作る。
三阪剛には社会人になる前、東京湾クルーズ船でアルバイトをしていた。そこで知り合った女性と恋仲となる。ふたりは一緒に暮らしはじめるが、突然その女性は消えてしまう。なぜだかわからない。それから十数年、三阪は恋人を忘れられないでいる。独身を続けていたが、肺ガンとなりあっけなく死んでしまう。ここまでが第一部。前半である。
第二部はがらっと変わってヤスコという女性が登場する。野球をする娘もいる。読み進むうちに、このヤスコが第一部で失踪した女性であることがわかる。
なぜ三阪のもとから消えたのか、ヤスコの波乱な半生が描かれるのが後半である。
前半は明るいノンフィクションで、後半はシリアスな場面もあるけれど甘い大人のファンタジーといったところか。パブロ・カザロスの「鳥の歌」、マストロヤンニが主演した「ひまわり」などが出てくる。甘いでしょ。白川道の小説を彷彿させる。
伊地知はちょっと説教臭い。伊集院静は週刊文春で「悩むが花」という人生相談を連載している。そのせいでもなかろうが、説教臭がにおう。歳もシニアで、人生経験も豊富だから当然か。
ただし、それを批判しているわけではない。説教を聴くのもわるくはない。
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