一之輔独演会 活きのいい噺
春風亭一之輔を初めて聴いたのは10年ぐらい前である。
当時、気鋭の二つ目として名を知られるようになった。成城ホールでは「こしら・一之輔二人会」が定期的に開かれていた。
おもしろいけど落語ヘタクソなこしらと、毒を含んだテンポのよい正統派の一之輔という組み合わせが新鮮だった。
一之輔の真打昇進によって二人会はなくなり、こしら・馬るこ・萬橘三人会に引き継がれたが、客数はガタッと減った。一之輔人気に支えられていたのだ。
一之輔噺で好きなのは、落ち着きのない粗忽者が登場するものだ。「堀の内」とか「粗忽の釘」。常軌を逸した人物をギャグ満載でテンポよく演じる。
さて、麻生市民館大ホール(1000人収容)での独演会。今回は何をやるんだろうか。
真田小僧 粗忽の釘
ねずみ
後方に空席があったがほぼ満席と言ってよい。後ろから見ると、海老蔵に似ていると言われたことがあるとまず笑わせる。確かに坊主頭だから似てなくもない。織田無道と言われたこともあるそうだ。
で、「真田小僧」。(上)の部分だけでオチ。真田の六文銭の話は出てこない。高座は降りず、つづけてマクラ。
最近引っ越ししたが、冷蔵庫が家に入らなかったエピソードをおもしろおかしく語る。引っ越しの話から、すんなり「粗忽の釘」に入った。引っ越しの噺。前半は略して、釘を打つ場面からとなった。私の好きな一之輔噺である。犬のエピソードを加え、そそっかしさをさらに増幅させている。
中入り後は「ねずみ」。左甚五郎もの。ちょっとマニアックな話になるけれど、本来のパターンを変えている。ねずみやの主人が零落したいきさつを当人が語るのが古典のシナリオである。これを宿屋仲間に語らせるように工夫を凝らしたのが三遊亭兼好。こちらのほうが自然で受け入れやすい。で、一之輔も兼好バージョンを踏襲している。一の輔バージョンでは宿屋仲間をさらに元気な男として描いている。うまいものだ。
ということで、活きのよい噺を聴かせてもらった。
それはよいのだが、隣の男のギャハハハという笑い声が気になった。もうちょっと抑えて笑えよ!
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