別役実的宇宙 居酒屋は・・・
社会心理学者のP氏は、この「背筋が寒くなる」現象を、「自分にしらみやのみがたかっているのか、自分がしらみやのみにたかっているのか、わからなくなることによって生じる実存的不安」と名づけている。実に至当な表現と言わなければならないだろう。厚生省のノミ水虫対策が、医学治療部門のみにおいてなされているのに反して、しらみたむし対策が、医学治療、心理学治療双方の部門においてなされているのは、そのためである。
☆ ☆ ☆
別役実さんが亡くなった。新聞各紙は不条理演劇での功績を紹介しているが、片手落ちである。エッセイや評論が抜群におもしろかった。わけがわからいつまらない劇もあったのに対し、書きもの、時事エッセイはみな鋭く笑えた。電車の中では、クックックッと押し殺して笑った。冒頭の文章は、たまたま手元にあった『虫づくし』をぱらりと開いたところにあった一節である。これだけではなんのことかわからないが、こうした文章(文体)をベースに、新型コロナウイルスにかかわる社会現象をそれらしく評論、パロディ化することも可能である。
心地よい愚弄、臍の曲がった鶯、善良なることばの詐欺師・・・
別役実の著作はおすすめである。手軽に手に入るのは『満ち足りた人生』あたり。
新型コロナウイルスのせいでどこも空いている。オフィス街の居酒屋も同様。不要不急の外出は避けよということだが、ストレスはたまってくる。酒だ! バカ話だ! 友人を誘って神保町に出かけた。
店は空いているとのことだったが、いつものにぎわい。帰るころには満席となっていた。おやじに訊くと「先週はがらがらだったけど、みな我慢できなくなったんじゃないですか」とのこと。
別役実なら、近ごろのコロナ現象をどう評したであろうか。
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