「猫の皿」と「青葉の笛」
ライブで落語を聴くことが少なくなった分、CDを多く聴くようになった。ライブの方がいいにきまっているが、CDもわるくない。
脂が乗ったころの小三治がいい。とりわけマクラがおもしろい。「猫の皿」。短い古典噺である。10分もあれば語れる。それが小三治バージョン(07年に録音)だと50分を越す内容になっている。
マクラが長いのだ。マクラ39分、本題16分。
どんな話をしているかというと、小学唱歌「青葉の笛」についてである。「青葉の笛」という唱歌は知らない。が、聴けば、あああの歌かとわかる。高齢者ならきちんと歌える人も多いはずだ。
ネットで調べてみた。一番を書き出してみる。
一の谷の 軍(イクサ)破れ
討たれし平家の 公達あわれ
暁寒き 須磨の嵐に
聞こえしはこれか 青葉の笛
この歌のタイトルが「青葉の笛」だったのだ。「平家物語」の世界である。
小三治はこの歌が映画「無法松の一生」のなかで歌われていると語る。戦後のものではなく戦前の阪東妻三郎のもの。
この歌は平敦盛を歌ったものだという。
敦盛か。一の谷の合戦で熊谷直実と戦って討ち死にした。16歳の若さであった。笛の名手でもあった。敦盛は謡曲(能)になっているので今もその名を残している。
「青葉の笛」には二番がある。これは知らなかった。
更くる夜半に 門(カド)を敲(たた)き
わが師に託せし 言の葉(ことのは)あわれ
今わの際(きわ)まで 持ちし箙(えびら)に
残れるは「花や 今宵(こよい)」の歌
これは平忠度(清盛の異母兄弟)を描いたものだ。源氏に追われ落ちのびる際、忠度(タダノリ)は部下数騎で京に戻って、歌の師・藤原俊成(定家の父)のもとを訪れる。勅撰集ができるなら是非入れてほしいと和歌百首ほどを手渡してふたたび西に向かう。忠度は一の谷で討ち死にするのだが、鰕(エビラ 矢を入れる筒)に紙を巻き付けておいた。そこには和歌が書かれており、忠度のものとわかった。
俊成は忠度の和歌のうち一首を「千載集」に詠み人知らずとして忍び込ませた。その歌はご存じの方も多いだろう。
さざなみや志賀の都はあれにしを昔ながらの山桜かな
「青葉の笛」はもともとは「敦盛と忠度」という題名だったそうだ。その方がわかりやすい。「平家物語」がもっと身近に感じられただろう。
小三治は「青葉の笛」を朗々と歌う。噺家で朗々と歌うのは、川柳川柳か柳亭市馬ぐらいかと思っていたが小三治も歌うんだ。
これ以上書くのはくたびれる。これを読む人もくたびれる。で、今日はここいらでやめておく。「猫の皿」は、ま、どうでもよい。
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