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2022年2月25日 (金)

 小朝の落語 「入れ札」

 春風亭小朝菊池寛の短編「入れ札」を落語するという話を聞いたとき、悪くない試みだとおもった。菊池寛の「入れ札」は一級の短編小説である。小朝がどう落語に仕立てるのか、チケットを取ろうとしたがとれなかった。あれから何年かたつ。それが本になった。『菊池寛が落語になる日』。「入れ札」以下9つの落語とその原作である菊池寛の短編が載っている。

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「入れ札」をご存じない人のために簡単にあらすじを紹介しておくと、国定忠治ものである。忠治が逃げ延びる際、何十人もの手下がいたが、最後に十一人が残っていた。うまく逃げ延びるには十一人は目立ちすぎる。三人に絞って同行してもらいたいと忠治は言う。自分が選ぶのは忍びないからお前らで決めてほしい。で、入れ札(投票)で決めることになった。

 九郎助は古手だから自分が選ばれると思ったが人望がないことも知っていた。入れ札の結果、九郎助は外れた。九郎助にはたった一票しか入らなかった。しかも自分が入れたものだった。

 九郎助は忠治を見送ってから歩き始めると、手下の一人弥助が近づいてきた。お前に入れたのは俺だと言う。腹が立って切りつけたくなったが、できない。自分が投じたのは自分自身だとばらすことになる。弥助の白々しい嘘には腹が立つが、それ以上に自分の人望のなさ、自身の名を書いてしまったという卑しさに気持ちは萎え、荒んでいく。

 胸の内をよぎる寂寞感とか人間の弱さとかが浮かび上がってくる。菊池寛の短編は人の心の奥底をかき回すものが多い。残酷でもあるが、人間の一面をえぐる。

優れた作品が多い。たとえば、「忠直卿行状記」。これが一番好きだな。

 国語教科書から文芸小説が削られていくなどという話を聞く。よくわからないので突っ込まないが、いつまでも「こころ」とか「山月記」というのもどうかとおもう。

 菊池寛の「忠直卿行状記」とか「藤十郎の恋」。切ない結末である。ちょっと残酷とおもうかもしれないけど、高校生ぐらいなら読んでおいて損はない。

「山月記」もわるくないけど、同じ中島敦なら「悟浄出世」で高校生の知恵を絞らせる、想像力を涵養させるのもよい。

 落語からすこしはずれた。「入れ札」に戻ると、原作では、弥助が第二の人物になっているが、小朝の落語バージョンでは忠治にスポットが当てられている。どちらもおもしろい。

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