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2022年6月11日 (土)

『花散る里の病棟』

 帚木蓬生は作家であると同時に精神科の医師でもある。医療を扱った作品も多い。最新作の『花散る里の病棟』も医者の物語である。

 10編からなる短編集。四代にわたって医療に従事してきた野北家の物語であるが、初代から四代目まで必ずしも時系列に描かれているわけではない。それぞれは独立の短編であり、どれから読んでもよい。

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 初代は回虫駆除で評判になった。大正時代はこうやって駆除したのかと驚く。二代目は軍医としてフィリピンに派遣された。医療どころか、ただ米軍の攻撃から逃げ回る軍隊生活であった。著者には軍医を扱った短編集がある。『蛍の軌跡 軍医たちの黙示録』『蠅の帝国 軍医達の黙示録』。新潮文庫で読める。戦争文学の名作。それと重なる戦争記である。三代目は介護老人保健施設を併設する内科医院を経営している。そして四代目はアメリカ留学中に最先端の肥満医療技術を身につける。最後の章は、現在のパンデミック下の医療現場を描いている。

 病気や医療をわかりやすく解説している。とりわけ肥満対策として胃にバイパスをつける、つまり食道と十二指腸を直接つなげる手術については興味深く読んだ。この手術が保険の対象になっていることも初めて知った。腸内菌叢を移植する医療法にも触れている。ここではその内容は書かないけど、歴史好きの人なら「病歴 二〇〇三年」の章がおもしろいだろう。

 作者には感動的に締めくくる作品が少なくないが、わたしなど、ちょっと過剰だと感じることもある。この短編集はそのあたりはやわらかく包むように描いている。シリアスだけど読み終えるとほっとする。

 俳句がいくつも出てくる。登場人物が俳句を詠む。それが全体のシリアスさを和らげている。

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