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2022年9月29日 (木)

『隠し女 子春』

 辻原登は知識をひけらかす。ペダンティックである。過剰な知識のひけらかしは鼻につくこともあるが、知的好奇心を刺激してくれることもある。辻原登は後者。この人のひけらかしは愉快である。だから、辻原の小説を読む。

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 主人公・矢野聡は39歳、独身。大手出版社の校閲部に勤めている。女っ気はないわけではないが、小春と名付けたラブドール(ダッチワイフ)との暮らしを楽しんでいる。

 二人の女性が登場する。恭子は聡の部屋を望む賃貸マンションに住んでいる。映像翻訳をしている。しばしば聡の部屋を双眼鏡で覗いている。

 もう一人は千賀子。聡のセックスフレンドである。「ローズ バッド」という名のバーを営んでいる。ローズ バッド。映画ファンなら、ああ、あれねとうなづくはずだ。重要なキーワードだ。(知らなきゃ、調べてみてほしい)

 聡が隠し持つラブドール・小春は空気で膨らませたようなものではない。シリコン製の高級品。ハンガリー製。芦川いづみ風にメイクされている。

 小春は聡のいないところで、動き始める。人形ではなく人。ストーカーのように聡のあとをつけることもある。

 といった設定。後半はファンタジーである。

 読みすすむうちに著者の好みが浮きあがってくる。ラブドールのメイクでわかるように芦川いづみのファンであることは明らかだ。歌手はちあきなおみ。「喝采」より「紅い花」「黄昏のビギン」が好き。これはわたしの好みと一致する。映画はフェリーニ。「道」を奨める。

 芦川いづみが主演した「硝子のジョニー 野獣のように見えて」という日活映画があった。あれは「道」のリメイクだと聡は語る。へー、そうなのか。著者は芦川いづみ主演の映画はたいてい観ているようである。わたしは「硝子のジョニー」は観ていない。アイ・ジョージの歌しか知らない。

 といったぐあいで、俗なうんちくも披瀝されている。そのあたりがおもしろい。ただし高齢者しか理解できないかもしれない。

 どんなラストになるか。浮かんだのが聡と小春との心中である。たぶんあたっていないだろうが、そんな結末を夢想した。

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