「ラーゲルより愛を込めて」
ラーゲリ(ソ連強制収容所)を描いたノンフィクションはたくさんある。けっこう読んでいる。印象に残るのは内村剛介、石原吉郎。自らの体験を描いている。第三者による取材ものでは辺見じゅんの「ラーゲリからきた遺書」が出色のノンフィクション。出来すぎの感はあるものの感動的な作品である。
それを映画化したのが「ラーゲリから愛を込めて」。タイトルは変えられている。やや甘いが、ま、映画だから、それでいいか。
ハルビン爆撃から始まる。終戦、シベリア送り、そしてラーゲリでの暮らしが描かれる。過酷で地獄のような日々であったが、山本(二宮和也)は明るく振る舞う。ダモイ(帰国)の日はやがてやってくると仲間を励ます。収容所での暮らしや人間模様が描かれる。
映画を観ながら、フランクルを思い出した。フランクルは精神医学者。『夜と霧』で有名。ナチス下のゲットーや収容所で希望を捨てるなとユダヤ人たちに語り続けた。山本とフランクルは重なる。
やがて日本の家族と手紙のやりとりができるようになるが、山本は病に倒れる。のどのガン。末期だった。山本は遺書をしたため、帰国後、仲間は家族の元に届けようとするが・・・、といった物語である。
このストーリーの一番肝心な部分は、映画では最後に描かれる。それを明かすとネタバレになってしまうから止めておく。
でも、ちょっとだけヒントをあげると、かつてトリフォーが映画化したブラッドベリーの「華氏451度」に通じる。と書いてもわからないか。まずは映画を観てほしい。
感動的ではあるけれど、ひとこと文句をあげておく。ラストの結婚式のシーンはいらない。蛇足の蛇足。せっかくのいい映画なのに、どうしてこういうことをやらかすのだろうか。
言い忘れた。劇中で歌われるのは「クレメンタイン」。軍歌でもロシア民謡でもない。アメリカ民謡。この曲は西部劇「荒野の決闘」のテーマソングとして使われた。
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