『ひそかに胸にやどる悔いあり』
麻生区役所と市民館のあいだに庭がある。改修のため閉鎖されていたが、リニューアルなって記念のお花見会が開かれた。満開の桜は玉縄桜である。となりにある河津桜は葉桜になりつつある。
長く咲く。ひと月ほど咲いている。桜(ソメイヨシノ)はパッと咲いてパッと散るところがよいなどという見解があるが、バカかと思う。強がりにすぎない。長く咲き、散るころ、ソメイヨシノにバトンタッチするのがよい。
上原隆の『ひそかに胸にやどる悔いあり』を読んだ。上原隆の作風をひとことで言うと「しみじみ」である。
これにつけ加えるとしたら、とぼとぼ、くよくよ、こつこつ、といった副詞が浮かぶ。そうした装飾語にふさわしい無名の人たちを描いてきた。ノンフィクション・コラムというかスケッチである。せんだって、NHKの「ドキュメント72時間」で名古屋大須のラーメン屋を採りあげていた。あの雰囲気と似ている。
20編ほどの短編。一気に読み通すのはもったいない。一編読んで本を閉じ、登場人物のことなど振り返ってみる。そういう読み方がふさわしい。
表題の、ひそかに胸にやどる・・・は石川啄木の短歌にあったような気がする。表紙をめくるとエピグラムに、その啄木の短歌が掲げてある。
この日頃 ひそかに胸にやどりたる悔あり われを笑はしめざり
著者は啄木ファンなのだ。「友がみな我よりえらく見える日よ」というタイトルの著作もある。
新聞配達一筋に生きてきた人、街のサンドウィッチマンをずっとやっている人、川柳の投稿を唯一の生きがいとしている人・・・他人は人生の落伍者と見るかもしれないが、当人は懸命に生きている。無名人として世の片隅で生きている。
単行本を文庫にしたもの。以前の表題は『こころ傷んでたえがたき日に』だった。ちょっと暗い。文庫の、ひそかにやどる悔い・・の方が断然よい。
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