「生きる LIVING」
黒澤明の「生きる」がイギリスでリメイクされたと知ったとき、ちょっとわくわくした。脚本がカズオ・イシグロ。どんなふうに仕上げているのか、早く観たいと思った。
黒澤監督の「生きる」は通夜のシーンで始まる。映画の全体像がわかるような仕掛けとなっている。観客をぐっと引きつける。巧みな脚本である。今回のリメイク版ではどうなっているのか。
もうひとつ、興味がわくのは、ラストのブランコに乗りながら歌うのは何か。まさか「ゴンドラの唄」ってことはあるまい。
イオンシネマで観てきた。冒頭は通勤シーンである。通夜ではない。市民課に配属された若者は役所に初出勤する。そこで主人公のウイリアムズ課長(ビル・ナイ)に出会う。ウイリアムズは小役人らしく大過なく過ごしてきた。公園を作ってほしいという陳情の女性たちがいつものように押しかける。それをたらい回しにする。
時代設定は1953年。黒澤版とほぼ同時期であるが、黒沢版は戦後の混乱状態を色濃く映しているのに比し、リメイク版は落ち着いた古風なつくりとなっている。戦後を感じさせない。
課長は早退して病院にいく。ガンで余命は半年、長くもって9ヶ月と告げられる。息子夫婦にそれを伝えるべきだが、言い出せない。
レストランで出会った若い男と酒場に行く。黒澤版では胡散臭い男(伊藤雄之助)だったが、リメイク版の若者は健全な感じがする。がんであることを伝えると、半年もあれば、人生の始末はつけられるし、楽しむことができるとウイリアムズを励ます。
そして何ヶ月後、ウイリアムズの葬儀となる。葬儀の後のお茶の場と帰りの列車の中で、彼の仕事ぶり、公園づくりにまい進したことが明らかにされる。同僚はウイリアムズの功績をたたえる。黒澤版の通夜のシーンがここで再現されるわけだ。
ラストで歌われるのはスコットランド民謡の「ナナカマドの木」。この歌、映画の真ん中あたりでも出てくる。ウイリアムズは元気よく歌う。
と、ここまで書いても、ネタバレなどと文句をつける人はいないだろう。名作のリメイクなんだし、その雰囲気の違いは伝えることはできないから。
最期に十分な仕事をなした。小さな満足感にひたる。それで幸せなんだ。無名人の気持ちをよく表している。
もちろん、お役所仕事への皮肉も描いている。
落ち着いた雰囲気がただよういい映画になっている。高齢者向きだが、若い人にも観てもらいたい。
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