「波紋」
荻上直子監督作品に登場する人物は、世の中からちょっとずれている。風変わりでゆるい。前作の「川っぺりのムコリッタ」もそんな人物が多く登場した。ひとの家にかってに入り込んでご飯を旨そうに食べる男とか。ムロツヨシの役。それがなんだか心地よいのだ。
荻上監督の「波紋」をイオンシネマで観てきた。前作とは色合いが異なるが、ずれとか、ゆったりしているのは荻上カラーである。
主人公は依子(筒井真理子)。夫は家を出て、行方知れず。夫の父親を介護し、看取る。息子は就職して九州にいる。独り暮らしである。スーパーでパートをしている。緑命会という宗教にはまり、集会に参加している。家には緑命水とかいうペットボトルが山積みとなっている。
そこに、夫の修(光石研)が帰ってくる。ガンだという。金を無心する。依子の心は乱れる。せっかく平穏な独り暮らしをしていたのに。
ここから波瀾万丈の展開となるかというと、そうはならない。荻上ワールドはゆるい。これまでの作品よりは多少波乱を感じさせるが・・・。
いくつもの出来事は依子の心を乱れさせる。更年期障害もある。夫の歯ブラシで排水溝を掃除したりして悪意をのぞかせる。差別意識もある。普通の人間だもの。
信仰が心の支えになる。振興宗教というと金儲け主義だったりして社会的には嫌われているが、緑命会はそれを感じさせない。人生相談的存在である。祈りの踊りは笑えるが・・・。このあたりのことは言わないでおく。言うとこれから観る人の興をそぐ。
ラストシーン。これを披露するとネタバレなどと言われるかもしれないがこの映画に限ってはネタバレにはならないと思う。
依子は晴れているのに雨が振る中、喪服姿でフラメンコを舞う。
バックグラウンドミュージックがあるのはこのシーンだけ。音楽なし。手拍子がときどき入る。ああこれは、フラメンコの手拍子だとわかる。
映画のチラシに「痛快爽快! 絶望エンタテイメントの誕生」とあったが、違うよね。痛快爽快ではない。絶望エンタテイメントでもない。不思議ワールドである。
それにしても、光石研の役回りは、ダメ男ばかりである。