「ほかげ」
塚本晋也監督の「ほかげ」をアートセンターで観てきた。「野火」「斬、」に続く監督作品である。
終戦直後を描いている。焼け残った居酒屋で暮らす女(趣里)のもとに戦争孤児がやってくる。盗みや闇市の手伝いをして生き延びているらしい。女の元で息子のように住み始める。が、諍いがあって家を飛び出す。少年は片腕が不自由な復員兵とともに旅に出かける。
名前も状況も最小限の情報しか明かされない。復員兵の名前がアキモトショウジだとのセリフがあるだけで、女も少年の名前もわからない。そういう映画かと思えば、ま、そういうことなのだろうと観客は納得するしかない。
塚本監督は出演者をアップで撮る。セリフはない。無表情。なにを考えているのかわからない。ときに絶望的であったり、社会に背を向けているようにも見える。
だから、いろいろな解釈ができる。戦禍。ひとことで言えば、戦争により傷ついた人々の戦後である。大人はともかくとして、子供はそこを乗り越えていかねばならない。監督は、最後に、少年の覚悟、たくましさを描くことで、希望の灯を見ている。少年の目つきが印象に残る。
ということであるが、戦後の混乱期を描いた映画はいっぱいある。この映画もそのひとつ。従来のものを突き破るようなところがない。類型的というか凡庸に感じられる部分もある。だけど、もう一度繰り返す。少年の目つきがよい。
ついでのひとこと
今年を象徴する漢字に「税」が選ばれた。ちょっと意外。増減税の議論があったけど、実施されたわけではない。「旧」を挙げたい。今年は「旧」が目についた。(旧統一教会)、(旧ツイッター)などとかっこ付きで表現された。ジャニーズ事務所も旧になる。もう少しすれば、旧ビックモーターになるかもしれない。
« 「松浦の太鼓」 大高源吾 | トップページ | 「市子」 »
「映画」カテゴリの記事
- 「新世紀ロマンティクス」(2025.06.14)
- 「国宝」 歌舞伎世界を描く(2025.06.10)
- 「無名の人生」(2025.05.27)
- 「サブスタンス」(2025.05.23)
- 「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」(2025.05.19)
コメント