「落下の解剖学」
裁判もの映画は例外はあるものの総じて面白い。被告への検事の追及は執拗で緊迫感を生む。弁護人はそれを巧みにかわす。判事は冷静にやりとりを見つめる。これまで多くの優れた裁判映画があった。今回の「落下の解剖学」も見応えがあった。
グルノーブルの雪の山荘で転落事件が起きた。事故か、自殺か、それとも突き落とされたのか。警察は、亡くなった男の妻が殺したのではないかとの疑いを抱き、捜査を始める。前日に夫婦が大ゲンカをしていたことや頭部に打撲のような痕があることにより、妻を殺人容疑で逮捕する。そして裁判となる。
法廷でさまざまなことが明らかにされていく。夫は大学を辞めて作家活動に入るが、スランプに陥っていた。妻のサンドラは家事をしながら作家活動をし、ベストセラーとなる作品も書いていた。11歳の息子には視覚障害がある。4歳の時に事故でかなりの視覚を失ったのだ。
夫婦はしょっちゅうケンカをしていた。ときには激しく。それが明らかになる記録(夫が密かにUSBに録音していた)も見つかり、検事は激しくサンドラを追及する。
息子も傷ついていた。悩みも増していた。そして証人台にも立つことになる。
タイトルに解剖学とあるのは、夫婦関係を腑分けするようにメスを入れていくところからつけられたものと思われる。心の奥底を明らかにしようとする。妻役のサンドラ・ヒューラー(ケイト・ブランシェットに似ている)の演技が素晴らしい。夫婦ゲンカのシーンは迫力がある。検事や弁護人の演技、さらには、息子の苦悩ぶりも印象に残る。
話は変わって、わが家。ときどき夫婦ゲンカをする。映画ほどすさまじくも長くもない。
短時間で終わらせるにはコツがある。一言でいえば、相手の戦意を殺ぐってことかな。ただちに白旗をあげるとか。