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2024年2月15日 (木)

キルギスの野っ原 「父は憶えている」

  キルギスの名を知ったのは、学生のころ、エセーニンの詩によってである。その一節。

    きみらにはわがくにの光は 明るく映るか?  

    マンドリン弾きが淋病を酒で治療中  

    キルギスの野っ原でもらって来たというその淋病を

  キルギスは草原の国らしい。ソ連邦の一部だったが、連邦崩壊後、独立国となった。カスピ海沿岸、カザフスタンやウズベキスタンに隣接する小国である。

 そのキルギスを舞台にした「父は憶えている」をアートセンターで観てきた。

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 ロシアに出稼ぎに行って音信不通だった老人が23年ぶりに村に帰ってくる。事故で記憶と声を失っていた。昔の写真を見せても記憶はよみがえらない。息子や家族はその姿に戸惑うが、さらに問題があった。男の嫁さんは再婚して家を出ていたのだ。家族だけでなく元妻も動揺する。

 映画はそのあたりの人間模様を詳しくは映し出さない。ムスリムの布教活動や村の変化を淡々と描いている。鉄道も敷かれ貨物列車が走っている。高速道路と思われる道路も整備されている。村ではあるが、都市化の現象も見られる。ゴミ、とりわけ粗大ゴミが散乱している。

 老人は黙々とゴミを片づける。元妻は動揺を隠せないでいる。再婚した相手は金持ちらしい。レクサスに載っている。

 ドラマチックには描かない。結末というか今後どう展開するかも明らかには示さない。わずかなヒントはあるとしても。

 ま、それでよい。ムスリム社会での女の意志といったものの芽生えがうっすらと感じられる。

 

 

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