『ユーカラおとめ』
せんだって、朗読の歌の会「いのちかけて」について書いた(3/12参照)。三人の女性のうち、知里幸恵についての伝記小説『ユーカラおとめ』を読んだ。アイヌの彼女はアイヌの口承文芸である「ユーカラ」を日本語に翻訳した。「アイヌ神謡集」として出版された。その短い生涯を描いたものだ。
アイヌ語の研究で知られる金田一京助の手助けをするため上京し、京助の自宅に住むことになる。京助は研究熱心だが、人付き合いの機微には疎いところがある。アイヌ文化を尊重する一方で、平気で、差別表現である「土人」ということばを使ったりする。無神経である。京助の妻・静子は神経質で気分にむらがある。夫婦仲はよいとは言えない。
「ユーカラ」をローマ字で書きとめ、日本語に翻訳するのが幸恵の務めである。京助によく仕え、京助も彼女の能力を高く評価した。
幸恵は心臓の病があったが、その命を削るようにその作業に集中した。アイヌの言葉や文化が和人(日本人)によって滅ぼされてならないというのが天命だと感じていたから全力を尽くしたといえる。
中條百合子という時代の先端を行く女性がしばしば金田一宅を訪れる。のちの宮本百合子である。百合子は幸恵の立場を理解しつつも、上から目線というか、アイヌを低く見ているようなところがあった。幸恵は反撥する気持ちはあったが、強く抵抗はできなかった。
本書では書かれていないが、19歳で命を落とすことになる。
このごろ、アイヌをめぐっての文化伝承のイベントや出版物を目にするようになった。映画「ゴールデンカムイ」もその一つ。原作はコミック。コミックを読んだ人からすると中途半端な終わり方で、物足りない映画だったようだが、原作を読んでない私はそこそこ楽しめた。続編を期待している。
もうひとつ。東京新聞(夕刊)に連載中の「札幌誕生」は、ちょうどアイヌを描いている場面である。
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