『中井久夫の人と仕事』
精神科医が書くエッセイ(難しい専門書ではない)を多く読んできた。中井久夫もそのひとり。でも、一人に集中してというわけではないから、それほどは読んでいない。ぽつりぽつりとである。
最相葉月の『中井久夫の人と仕事』は、中井久夫の著作集(全11巻)の解説をあらためて一冊の本にしたものだ。中井久夫の生涯を描いたものともいえるし、思索をたどったものともいえる。中井久夫の業績を知るにふさわしい著作である。
中井久夫の文章を読むと、なんだかいいなあとか温もりのようなものを感じる。続けて集中して読むのはもったいないような気がして、ときどき読むようになった。途中で本を閉じることもある。それがぽつりぽつりである。
精神科医の中沢は、優しい。患者の気持ちに沿って診療する。治療とも思えないような診察である。精神科医はそれでよい。無理に薬とか注射で治るような病ではない。うつだのといっても幅広い。患者によって治療法はさまざまであって、ウイルスに感染したといった病とは違う。うつは病気と考えない方がよいのかも知れない.
精神病治療に電気ショックを与えたりする治療がある。鉄格子のある病棟に閉じこめたり拘束服を着せたりすることもまだ行われている。中沢の考えはそれとはまったく異なる。
以前、当コラムで『治りませんように』を紹介したことがある。襟裳岬にちかい浦河町にある「べてるの家」を取材したものだ。べてるの家には統合失調症などの精神障害を患う人が共同で暮らしている。精神科医やソーシャルワーカー、家族らが彼らの支え、事業を営んでいる。ゆるい日常である。治ることにしがみつかず、適当に自分自身と折り合いをつけながら暮らしている。中井久夫の考えと似ている。
統合失調症は的確な治療法は患者によって違う、患者自身が考えながら治療を受けることが大切だと考えた方がよい。
中井の治療法についてはさらに詳しく触れたいけど、やめておく。中井久夫の著作をぜひ読んでもらいたい。
最後にひとつだけ引用。
中井は常々、「精神には自然回復力がある」といい、「本来統合失調症は、治りにくい病気ではなく、回復を妨害する要因が多い病気である」と語ってきた。
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