「青春」 ワン・ビン
アートセンターでワン・ビン監督の「青春」を観てきた。
ワン・ビンはドキュメンタリーの巨匠といわれている。いくつもの名作をてがけてきた。映画は観たいが、ちょっと難点がある。尺が長い。5時間を超すものもある。今回の「青春」は3時間35分。
このくらい長いと問題は尿意である。出口近くの通路側の席を選んだ。もちろん水分摂取は控えて。
揚子江下流の工業地帯、子供服の縫製工場で働く若者たちの姿を描いている。電動ミシンのモーター音がダッダッダッとうるさいほど響く。ミシンの糸は切らず、次々と縫う。あとでたたむときに縫い糸をカットする。手際がよい。働き手は20前後の若い男女。みな、安徽省などからの出稼ぎである。
給料は安い。しばしば賃上げを社長(縫製工場は小規模)に申し入れるが、すんなり賃金が上がるわけではない。寮生活や恋愛模様も描かれる。ワン・ビン初めての劇映画と聞いていたが、ドキュメンタリー映画といわれたら、そうかと思う。それほど日常が淡々と描かれている。
ひたすらミシンに向かう。そのシーンが長い。モーター音がうるさいと感じたが、途中からはそれが日常だと馴れてしまう。日本の想田監督に「牡蠣工場」というドキュメンタリーがある。牡蠣を剥くシーンが延々と続く。あれを思い出した。船酔いのような気分になる。モーター音はマシンガンのようでもあるが、馴れると頭がしびれるようになる。心地よく響く。不思議なことだ。
3時間半、途中でトイレに駆け込むことはなかった。モーターの響きが尿意を忘れさせた。映画に起承転結はない。ワン・ビン流の描き方はこうである。
そして、たぶん、今も、ミシンは音を立てて回っているだろう。