『存在のすべてを』
4月21日の「取材と構想」の続き。
塩田武士の『存在のすべてを』をようやく読み終えた。
厚木と横浜で二つの児童誘拐事件が起きる。身代金要求に対応する警察の動きがドキュメンタリータッチでリアルに描かれる。厚木の児童は無事見つかった。もう一人は行方不明のまま。しかし3年後に何事もなく家に戻った。犯人は逮捕されなかった。
それから30年、当時取材していた新聞記者・門田は、元刑事の通夜に行く。そして再び事件を追うことになる。この記者が主人公かとおもったら、後半は画廊に勤める女性の視点で描かれるようになる。新進気鋭の写実画家が、誘拐されて行方不明となっていた児童だったことが週刊誌で報道される。
「取材と構想」という視点を頭に入れながら読んだ。読者は、なぜ児童は3年間行方不明だったのか、犯人は誰なのか、などの疑問を抱きながら読み進める。誘拐された児童の家庭環境がしだいに明らかになっていく。そして3年間どうしていたのかも明らかになる。
日本の絵画界の実情、ヒエラルキー構造、画家と画廊(画商)の関係などについて丁寧に説明している。著者は写実画についてかなり突っ込んだ取材をしているのがわかる。*絵画界(画壇とかヒエラルキー)については黒川博行の小説でも読んだ記憶がある
写実画とは、写真より精密に書かれたスーパー・リアリズムの絵である。写実画を展示する千葉のホキ美術館(小説ではトキ美術館になっている)がちらりと紹介されている。
この小説、犯人探しよりも、親と子、家族のありようがテーマになっている。だから犯人の行方については最低限しか触れられていない。それでよいと思う。
ついでのひとこと
黒川博行の『悪逆』が「吉川英治文学賞」につづいて「大人の推理小説賞」も受賞した。過払い金やカルト宗教で不当に稼いだワルを殺害して金を奪った犯人を追いかける刑事を描いたものだ。犯人は捕まりませんようにと願いながら読んだ。一級のミステリーである。こちらもおすすめ。
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