『女の子たち風船爆弾をつくる』
5月25日の当ブログで、風船爆弾をテーマとした山田朗さん(登戸研究所資料館所長)と作家の小林エリカさんの対談について書いた。
その小林エリカさんの『女の子たち風船爆弾をつくる』を読んだ。
ノンフィクションである。手法が他のノンフィクションとは違う。登場する少女たちは「わたし」あるいは「わたしたち」と表現されている。固有名詞がほとんど出てこない。わたしたちの満州国皇帝、中国国民政府の主席の男、イタリア王国元帥の男、わたしたちの海軍大将の男・・・などと表現されている。読者はそれがだれかを理解しているから固有名詞を特段使わなくてもよい。一般化するとか客観視する効果を狙っているとも言える。
たとえば わたしは、わたしたちの国家「君が代」を、歌う。
本書の語彙で、もっとも多いのは「わたし」と「わたしたち」である。数えたわけではないが。
前半は宝塚少女歌劇団の少女たちが描かれる。ヨーロッパ親善演奏旅行ではムッソリーニに出会っている。後半は風船爆弾づくりにかかわった女学生である。跡見、雙葉、麹町の女高生。
風船の原料は和紙。こうぞからつくる。糊はこんにゃく芋。けっこう手が掛かっている。東京宝塚劇場で貼り合わせ、組み立てられる。人海戦術である。穴や隙間があると和紙と糊で補強しなければならない。今から思うと、こんなもので爆弾をつくらなければならないほど日本は苦境に陥っていた。今だから言えることだが、ダウン寸前のボクサーだった。
写真は登戸研究所資料館にある10分の1のレプリカの風船。
不合格品となった和紙は 戦後、赤線で働く女性たちに質の良い桜紙として売りさばかれたという。知らなかった。
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