『蛍の光』
文芸評論家の縄田一男さんは時代小説を専門としている。褒める評論家である。けなすことはない。この人の手になると、どれもがというとおおげさになるが傑作になる。だから、多少眉唾で書評を読むことになる。それでも、的確な評だと思うことが多い。縄田さん自身が時代小説の大ファンだということがわかる。
新聞で『蛍の光 長州藩士維新血風録』(阿野冠)の書評を読んだ。傑作だと評価しているわけではないが、視点の面白さ、志をもった若者たちの心情に寄りそった作品だと評価している。
長州五人組(長州ファイブ)を中心とした物語である。山尾庸三、伊藤俊輔(博文)の視点で描かれる。ふたりは、血気にはやる暗殺者だった。人を殺めたが、才気を生かし、英国留学生に選ばれる。支度金を吉原につぎ込んでしまったりするが、長州戦争の直前、国を脱出しイギリスに渡る。庸三は造船学などを学んだ。俊輔は長州危機の報を知り、急いで帰国する。渡航するあたりが本書の中ほどである。
二人を苦しめたのは、かつて犯した人斬りである。若気の至りとはいえ人には言えぬ人生の汚点である。その心の重荷を抱えながら怒涛の時代を切り開き、維新の立役者となっていく。おもしろい小説である。
タイトルの「蛍の光」はあのスコットランド民謡である。この歌を象徴的に挿入している。
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