「敵」
筒井康隆は90歳になった。寄る年波には勝てず、妻ともども老人ホームに入った。老人ホームは超高級。介護は手厚いし、食事もよい。が、それだけではものたりない。外出ツアーで豪華な中華料理に舌鼓をうつ。食べる量は減ったが。食欲はある。健啖。 そんな近況を新潮社の雑誌「波」に書いている。
筒井康隆原作の「敵」を、テアトル新宿まで出かけ観てきた。監督は吉田大八。原作は30年近く前の書かれたもの。私は読んでいない。
フランス文学の教授であった渡辺儀助(長塚京三)は妻を亡くし、独り暮らしをしている。朝食もきちんと作って食べ、豆を挽きコーヒーを飲む。歯磨きも怠りない。掃除洗濯もこなしている。金銭管理も問題ない。死ぬまでの収支計算も出来ている。たまにバーにでかけ、かつての教え子たちと飲む。家にも編集者や教え子がやってくる。前半は、老後としては理想的な姿が描かれる。
これが崩れていく。現実と幻想が交錯するようになる。性的妄想もあって、亡き妻があらわれ、儀助の言動をなじったりする。
さらに、よくわからぬ敵の襲撃を恐れるようになる。敵は北から突然襲ってくるらしい。妄想か。認知症とひと括くりにすることもできるが、この妄想の描写がおもしろい。
DIE WITH ZEROという考えがある。金銭面で言えば、すっからかんで死ぬ。貯金も借金もなし。貯えがあればそれを使い切って死ぬ。相続税などとんでもない。
ということで、儀助はそんなふうに生き、死んでいくことができるのか。映画は最後まで映し出している。
独居老人にはお薦めの映画だ。
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