「籠の中の乙女」
「哀れなるものたち」は大ヒットした。奇っ怪なストーリーなのだが、それが面白いとなった。ヨルゴス・ランティモス監督の名も高まった。
2017年の同監督による「聖なる鹿殺し」が印象に残っている。ラストシーンはカフカの「変身」を思わせた。「変身」は、視点にもよるが、ハッピーエンドである。「聖なる鹿殺し」もそうである。誰かが犠牲になる、それと引き換えに平穏な日常がもたらされるといった神話の世界を連想した。
「籠の中の乙女」をアートセンターで観てきた。4Kレストア版。「鹿殺し」より以前に作られたものだ。
ひとことで言って、やっかいな映画である。変てこりん。設定は明らかにされない。ファーストシーンはなんだろうと観客は首を傾げる。
ある家族の話。両親は子供たちを家に閉じ込めて育ててきた。家のほか広い庭とプールが生活圏。なぜそうしたかは不明。タイトルに乙女とあるが子供は息子と二人の娘。親に服従させられてきた。従順を強いられ、スタンプをあつめるとご褒美がもらえる。子供同士では取引がある。肌を舐めるとカチューシャがもらえるとか、交換である。育つにつれ、性への関心もあり、セックスごっこをする。その一方で、塀の向こうも気になってくる。親は犬歯が抜けたら外に出られると教える。乳歯じゃないから生え変わることはないのに。
親は意のままに育てようとするが、子はそうはならない。いずれ反撥する。精神の歪みも表面化することになる。
異状、奇っ怪、不気味・・・これぞランティモスの世界である。
映画は唐突に終わる。えっ、これで終わり? ハッピーでもアンハッピーでもない。不気味さだけがただよう。観客を突き放す。なにかを感じとり、解釈することは可能だが、それを書くと安直になりそう。書かないで保留しておこう。