『編集を愛して』
きのうの続き。
松田哲夫と私は同い歳。言うまでもないが後期高齢者。いま、パーキンソン病を患っている。老人ホームでくらしている。本書のサブタイトルに「アンソロジストの優雅な日々」とある。現役時代は優雅だった、ということか。
松田は学生時代、筑摩書房でアルバイトをした。その延長で入社する。
松田が編集者として手腕を発揮するのは。アンソロジーである。『ちくま文学の森』『ちくま哲学の森』は大ヒットとなった。出版界に松田の名を知らしめた。
『ちくま文学の森』の編者は、安野光雅、井上ひさし、池内紀、森毅の四人。「哲学の森」で鶴見駿輔が加わる。
その編集会議の様子を伝えている。談論風発、放談会といった趣き。編者たちもこの会合を楽しみにしていた。とりわけ鶴見の博覧強記ぶりに他メンバーは驚かされた、愉快な会合だった様子が伝わってくる。こういう会議に出席していた松田がうらやましい。このアンソロジーはいまも読み継がれているという。
のちに松田は、筑摩ではないけど『中学生までに読んでおきたい日本文学』などの編者にもなっている。
編集者は原稿依頼だけで作家と付き合うわけでない。執筆以外のまじわりがある。
赤瀬川原平、南伸坊、藤森照信らの路上観察学会の創立に立ち会う。老人力もその付き合いの中から生まれた。野坂昭如のアドリブ倶楽部(ラグビーチーム)のメンバーにもなった。
書きたいことはまだまだある。「ちくま文庫」もそれだが、切りがないので止めておく。ひとこと加えると、本書は読んで心地よい。ちくまファンにはなつかしくもある。
ついでひとこと
「中学までに読んでおきたい日本文学」の「お金物語」に森鴎外の「高瀬舟」がリストされている。安楽死をテーマにした名作だが、それを「お金物語」に分類したのはひとつの見識である。
喜助は流刑となるが、お上から二百文を渡される、喜助にとっては初めて手にするまとまった金である。現在の価値なら1万円に満たない。ありがたいことだと感謝している。お金の価値、金銭感覚の面からこの短編を味わってみるのもよい。
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