『普天を我が手に』
大正天皇が崩御し、昭和となった。昭和元年はわずか7日間しかない。その7日間で生まれた4人の子が組み紐のようになって昭和が描かれる。
『普天を我が手に』の第一部を読み終えた。二週間ほどかかった。なにせ600ページ近くある大作。目が悪くなったわが身としては一日50ページほどしか読めない。時間がかかる。
作者は奥田英朗。群像小説が得意な著者だから、昭和の数々の出来事を巧みに絡ませて、激動の時代を生きた人々を描いていくものと期待させる。奥田英朗の作品では最初に読んだ『最悪』が忘れられない。すごい作家があらわれたものだと思った。25年ほど前のこと。以後、奥田作品はすべて読んでいる。
主人公は、陸軍の竹田少佐。財閥の御曹司だが、軍の方針には批判的だから軍内では疎んじられている。金沢のヤクザの領袖・矢野辰一。全国の侠客、つまり右翼の代表に祭り上げられる。雑誌「群青」の編集長・森村タキ。女性解放を主張し、官憲からは睨まれている。そして、大連のジャズ楽団を率いる五十嵐譲二。興行師としてのし上がっていくが、怪しげな取引に巻き込まれる。
2・26事件や満州事変などのおなじみの昭和の歴史を俯瞰しながら、この4人の動向を描いている。第一部は英米との戦争突入までが描かれる。昭和元年生まれの子供たちはまだ幼い。が、父親や母親の薫陶を受け、自我を育てていく。この4人の接点はまだない。いずれ、4つの糸はより合わせていくものと思われる。
昭和史を描いたノンフィクションーや小説はずいぶん読んできた。だから新鮮でない部分もあるとはいえ、4人とその家族をうまく絡ませることで、秀逸なエンターテイメントとしている。なにより読みやすい。奥田英朗の才能を感じさせる名作である。
9月下旬に第二部が刊行された。続けて読もうとも思うのだが、ほかに読む本、雑誌も手つかずになっている。観るつもりの映画も先延ばしにした。ちょっと我慢してそれをやっつけてからにしよう。

















