役員報酬一億円
十年ほど前だったか、サラリーマンの賃金推移を調べてみたことがある。簡単にいうと、五十代の賃金が上昇から横ばいに転じていたことがわかった。年功序列型の賃金体系が崩れていた。役職定年制とか、コンピテンスうんうんというよくわからない考えが導入され、五十代以降の賃金が抑制された。
この抑制された人件費がどうなったかというと、大企業に限ってかもしれないが、経営トップ層の報酬に回った。かつて大企業の社長の報酬は新入社員の十数倍といわれたが、二十倍やそれ以上になった。失われた十年とか二十年とかいわれた時代にもかかわらず、である。
理由は、欧米の経営者はもっと貰っているからそれに近づけるためとか、株主代表訴訟により無限責任を問われる可能性があるので、そのリスクに見合う報酬が必要だから、とも言われた。
都合のいい言訳だったが、その後も役員報酬は増え続けた。
上場企業で役員報酬が一億円を超すと公表することになっている。先ほどそれが新聞記事となっていた。
一億を超す報酬を受け取っている人は359人となったそうだ。年々増え続けている。中には十億円を超す人もいる。すげえ! と感嘆するしかない。日産のゴーンさんは十億をわずかに下回るだけ。毎年何億ももらっているわけだから、その累積はいかほどか。すごい金持ちである。
高報酬の理由を、株主代表訴訟で無限責任を問われるリスクがあるからとしたが、これは方便にすぎない。代表訴訟で実際に何億も支払わされた例は極めて少ない。さらに保険がある。あまり知られていないが株主代表訴訟保険である。たとえ不祥事などで何億も支払わされる羽目になっても保険でカバーできる。たいていの会社はこの保険に入っている。保険料は個人負担だが、その分は報酬に加算しておけばよいのだから、個人の腹はいたまない。だからリスクうんぬんが報酬をあげる理由にはならない。
トップが高報酬ならそれに次ぐ役員の報酬も増えている。企業で上位10パーセントの人の収入が総人件費で占める割合がどのぐらいで推移しているか、それは調べたことはないけれど、どなたか調査してもらいたいと思う。まちがいなく増えているはずだ。さらに税率も下がっている(累進課税の率がゆるやかになっている)から、金は金持ちに流れている。
一方で、ワーキングプアだのブラック企業だの低収入所得者問題が社会問題となっているが、格差を埋める策はさして講じられていない。
これでいいわけがない。いいわけがないけれど、儲けすぎ、貰いすぎを咎める声はいまだ小さい。
紀伊国屋文左衛門は吉原で散財し、そのお大尽ぶりは喝采を浴びた。貯めるだけが能ではない。寄付もいい。
金持ちには喜捨が似合う、と思うのだが・・・。

