『井上ひさし外伝』
井上ひさしは、孤児院時代から映画を手あたり次第観ていた。高校時代は1000本は観たという。教師の許しを得て午後は早退して映画館にむかった。好きな映画は何度も観た。私も映画好きだが、井上ひさしにはかなわない。すごい。
『井上ひさし外伝 映画の夢を追って』(植田紗加栄著)は、映画の面から描いた評伝である。それにしても井上の映画偏愛ぶりはクレイジーである。しかし、それが血や肉となって、小説や脚本づくりにつながった。
生涯ベストテンなどが紹介されている。邦画のトップは「七人の侍」。黒沢明監督作品が五作も入っている。「天国と地獄」「生きる」「姿三四郎」「わが青春に悔なし」。黒沢愛である。
ベストテンの中には今村昌平が二作、「豚と戦艦」「盗まれた欲情」が入っている。黒沢と今村。これは悪くない。わたしの好みと一致する。
洋画では「ミラノの奇蹟」がトップ。以下、「昼下がりの情事」「シェーン」「第十七捕虜収容所」「虹を掴む男」・・・・。ミュージカルが2本、「巴里のアメリカ人」「雨に歌えば」が入っている。
1位の「ミラノの奇蹟」は、私は観ていない。
あらすじが紹介されている。孤児院で育った主人公のトトは、原っぱに住む乞食老人の世話で土管バラックに住むことになる。トトは、その原っぱに廃材を集めた掘っ立て小屋の集落をつくる。そこに、思いがけず石油が噴き出す。すると地主が私兵を使って住民を追い出そうとする。そのとき、天からトトの育ての親だったロロッタばあさんの霊が現れ、軍勢を追い払ってしまう。居住地は守られるのだが・・・。このあともあれこれあってという展開。ファンタジーである。
スピルバーグの「E・T」のラストはこの映画をヒントにしているんだそうだ。
あらすじで推察するに、井上ひさしの生い立ちとも重なる。こういうのが好みなんだろう。
その他、寅さん、渥美清にも紙面を割いているが、下積み時代、浅草で出会っているから当然のことである。
私のベスト映画を紹介したいところだが、別の機会にする。ただし日本映画のベストワンは同じく「七人の侍」である。
好きなシーンは、ラストの有名なセリフの場面ではなく、勘兵衛のこのセリフ。
「この飯、おろそかには食わんぞ」
ついでのひとこと
井上に「汚点(シミ)」という自伝的短編小説がある。弟や母と別れての孤児院生活を綴ったものだ。それを思い出した。ただし、この小説に映画は出てこない。